日本国内では、従来、次の方法で小信号トランジスタアンプの設計が行われてきているのがわかってきました。
(1)試行錯誤による回路製作と測定
既に知られているトランジスタ増幅回路をベースとし、トランジスタの動作点(バイアス点)を論理ベース無しで暫定設定。
回路を試作、測定実験で、うまく動くがどうか確認し、NGだったら回路を見直す、製作と測定実験を良い結果が出るまで試行錯誤を繰り返す方法。
ここで使われる論理は、オームの法則と、Vbe=0.6Vというものだけ。[2]
(2)負荷直線を使用したバイアス点を決める方法[4]
(3)トランジスタの直流等価回路を使った設計方法
(4)トランジスタの交流等価回路を使った設計方法
(4)は、Kimio Kosakaさんがインターネットに公開されている方法です。[1]
上記、4つの方法を全て試した結果、現時点で、方法(4)が最も良く考察された設計法であることが分かりました。
以下、電圧増幅5倍(+14dB)のトランジスタアンプに方法(4)による設計法を適用し、LTspiceで設計した回路の動作検証を行いました。
結果、期待値の+14dBトランジスタアンプが正常動作することが確認できました。
補足説明:
トランジスタ回路設計で、1石低周波アンプ回路は最初の基礎的ステップですが、国内では十分に”交流等価回路を使った設計法”がおそらく良く知られていないのがわかってきました。
その結果、トランジスタ1石低周波小信号アンプすら正しく設計できない文化を作り出している書籍や文献[2][3]が広まったまま思考停止し、大変困った状況が長年続いているのもわかってきました。
spiceは、回路図と、回路図中のパラメータ全てを指定すれば、忠実にその電気的動作をシミュレーションし、結果を、過渡解析、AC解析として、画面に表示できます。
しかし、回路部品のパラメータをspiceは自身で自動計算することができません。
このため、人間が、回路部品のパラメータを計算し、spiceに与える必要があります。
マスターしている人には当然かもしれないのですが、まさかと思うほど、この設計方法(交流等価回路による設計法)が、日本国内の専門書では(皆無に近く)記載されていません。
日本国内の事情は、結果的に、そういう状態になっているのがわかってきました。
国内のこうした状況を改善するには、今からでも、交流等価回路を使った設計法を普及させる必要があると考えます。
上記手順で、一旦、回路設計ができると、より詳細な回路解析がspiceで可能になります。
以下、上で設計したAF AMP 回路を、Ltspiceを使い、エミッタに0uF , 1uF, 20uF, 200uF のコンデンサを付加して、回路特性の変化を、過渡解析、AC解析で比較しました。
エミッタ抵抗に並列に1uF以上のコンデンサを接続すると、電圧利得が劇的に上昇します。
{参考->[5]}
同時に、ノイズフロアも上昇してきます。
エミッタ抵抗に並列に接続するコンデンサは、1uF, 20uF, 200uF と容量を増すほど、高利得となる周波数の下限が下がってきて、広帯域の周波数で高い利得が得られています。
一方増幅可能な帯域が広くなるほど、副作用として、ノイズフロアが上がりS/Nが悪くなる傾向が見られます。
参考資料:
[1] Kimio Kosaka さんのサイトで、PDF文書によるトランジスタ等価回路(交流等価回路)を使った設計手順書(お勧め)
[2]定本 トランジスタ回路の設計 CQ出版社 1991初版, 2004年版を購入
(not recommended)
この書籍内容は、回路製作とオシロスコープによる回路特性測定を記述したもので、現代の設計に必要な情報は見当たりませんでした。
等価回路設計が始まる前時代には、トランジスタ動作がよくわかってなく、製作失敗経験と試行錯誤法による極めて工数を要する作業方法がとられていたと推測しました。
[3]アナログ電子回路 培風館 1990年初版〜1996年6刷 (not recommended)
この書籍内容は、トランジスタ2〜3石のアンプ回路設計を目指しています。しかし、実験による回路動作確認の記述が無く、理論を実験で検証する考え方の欠如が見られます。
演習問題を解くことに本の目標がおかれているため、設計の習得、回路動作確認との接点がありません。
等価回路を導くおそらく約半世紀前の時代遅れとなった内容が記述されており、国内の電子回路設計文化に関する課題の気づき、今後の進め方を考えるための文献として役に立ちます。
[4]Amplifiers:
Construction of Load Lines 1971 USAF Electronics Training Film (お勧め)
http://youtu.be/fc2HihAjq88
[5] The Load Line (DC and AC) in BJT analysis.(お勧め)
(Copyright by Mr.rolinychupetin, Mr.Youtube)
DC load line から、AC load line へ拡張したAmp計算方法のTutorialがYoutubeさんから案内がありました。計算式を使って丁寧な説明があります。従来説明ではDC load lineの説明のみに留まっていた例が多いようです。ここではAC特性での利得計算も出来るように検討範囲が拡張されていました。
[6] MIT 6.002 MOS FET amplifier : Small signal analysis, Large signal analysis (お勧め)
FETアンプの基礎がわかりやすく説明されています。
講座内に実験デモがついており、理論式が実験検証がされる等、日本文化の世界での位置づけ、考え方の違いも見えてきました。
[7] MIT 6.012 - Microelectronic Devices and Circuits Lecture 7
- Bipolar Junction Transistors - Outline (外国のレベルを知るためにお勧め)
FETアンプの基礎がわかりやすく説明されています。
講座内に実験デモがついており、理論式が実験検証がされる等、日本文化の世界での位置づけ、考え方の違いも見えてきました。
[7] MIT 6.012 - Microelectronic Devices and Circuits Lecture 7
- Bipolar Junction Transistors - Outline (外国のレベルを知るためにお勧め)
国内の専門書/教科書は大学用教科書を含み読みましたが、いまのところ実用になるものが見つかっていません。
それらは時代遅れの文献・書籍が多く、また、理論式が正しいかどうかを実験で確かめて、誤りがあったら、理論や理論式を修正する(少なくとも実験式は作る)というフィードバックが行われておらず、理論を精密化し、専門書を改訂する、という循環経路が、国内の設計文化としてこれから構築する必要あるように認識しました。
このままでは、電子回路だけでなく、日本国内の文化圏全般で、思考停止状態のまま、一歩も先に進めないと痛感しています。
テレビや新聞は、ずっと前に時代遅れとなった国内文化を繰り返し自画自賛する傾向が見られ、これらのメディアを見ていると、海外の文化の急速な進歩状況がわからなくなるように思います。
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