2015年9月19日土曜日

ベース変調式AM送信機の基礎実験/設計不良の解析

僕の生徒/学生時代に、トランジスタの終段コレクタ変調がうまく出来ないため、回避手段としてベース変調式AM送信機を試作・実験しました。
その結果は思わしくなく、ベース変調式で実用レベルになるAM変調回路を完成できませんでした。

今回インターネット上にのっていた記事[1]を参考にしてベース変調式AM送信機を構成したところ、全く変調がかからない結果を得てしまいました。

このように、AM変調が全くかからず、送信出力も微弱で実用になりません。(無変調状態)


この無変調状態を改善するべく、その回路改良に努力しました。



このように変調はかかるように改善しましたが、出力電波の変調具合は思わしくありません。オーディオ・アンプは十分高い出力電圧振幅なのに、AM変調がかかりにくく、得られる送信RF出力電圧も微弱です。

かつて試作したベース変調回路は、僕に関し可能なかぎり頑張ったものの、うまくAM変調がかからないという現象が、spice上でも全く同様に再現する・・・という結果になりました。

ベース変調回路は大変有名な回路ですが、に関しては、現在でも実用になるメドが立っていません。この方式は、もしかしたらあまり良い設計ではないのに、あまりその回路の電気的特性が知られないままなのかな?と個人的には思います。


この回路がうまくベース変調を出来ない原因:

(1)低周波変調信号電圧が、発振器出力OSC-OUTの電圧を変調してしまい、かつその信号がQ2のベースへも加わるので、低周波変調信号とOSC-OUTの信号を乗算できなくする電圧を生成している。

(2)Q2のコレクタ負荷のLC共振回路のインピーダンスが同調周波数で極大値になるため、Q2は正常な乗算動作を行えなくなる。

(そもそもトランジスタ・アンプは、コレクタ電流の飽和した負荷線上をスウィングするように、入力信号電圧を電圧増幅する電気的特性を利用して設計されるので、原理的に、アナログ乗算器動作そのものが出来ない。
ベース端子で動作しているのは加算回路としての動作である。)

(3)Q2のバイアス電圧を決めるR8,R4の値が最適化されていない。


対策法(検討のみ)

(1)発振器の後に、新たにバッファーアンプを加え、低周波変調信号が発振器出力を変動させないようにする。

(2)Q2コレクタ側LC負荷を抵抗に置き換えるか、できればフェライトビーズのような高周波抵抗成分が高くインダクタンス成分が少ないRFCに交換する。これによりQ2の乗算動作を安定化する。
ただし、Q2のコレクタ電流を飽和させない増幅領域に、バイアスポイントを設定すれは、アナログ乗算特性は、いくぶん改善するかもしれない。)

(3)ベース変調用トランジスタのバイアス電圧を最適化し、可能な限り増幅直線性の良い乗算器動作に近づける。


従来のベース変調回路の問題点:

(1)コレクタ負荷回路にLC共振回路を使うと、Q2の増幅動作が不安定になるため、コイルのセンタータップをとって負荷インピーダンスを下げる方法がとられてきている。
これは本質的解決にはならず、コイルのインダクタンス成分によるQ2の負荷インピーダンスの動的変動を引き起こし、増幅歪を発生させていると推定される。

 従って、上記(2)のように、Q2のコレクタ負荷をできるだけ抵抗に近い負荷(できればフェライトビーズでインダクタンス極小、高周波抵抗成分が大きい特性のRFC)を構成するという考え方が無かった、という設計上の基礎的誤りがあった。

(2)ベース変調に使うトランジスタをアナログ乗算器として動作させる必要があるという概念そのものが無かった。

(3)このベース変調は、発振器のキャリア信号電圧と、低周波変調信号電圧を同一ベース端子に加えるという設計思想のために、両者の信号が混合された合成信号がベース端子に加わることを配線構造的に防止出来ない。

従って、発振器のキャリア信号電圧と、低周波変調信号電圧を相互を独立して入力できないという必然的な配線構造となり、AM変調を不可能にしてしまうので、ベース変調方式の考え方そのものが最初から本質的に誤りであった。

数学的アプローチをとれば、従来のベース変調器では、RF信号電圧+AF信号電圧の加算回路になっているため、これでは電気的なビート現象が起こるだけで、必然的に、乗算動作ができず、AM変調は不可能である。


エミッターにOSCを注入する方式へ変更



OSC信号をベース端子からエミッタ端子へ注入する方式へ変更。
すると、送信質力がずっと大きくなり、AM変調らしき信号波も出てくるのですが、強力なスプリアス成分が現れてしまい、これでは電波の質が悪くて、実用になりません。
(この回路はTRをキャリア周波数の電圧でスイッチングする方式で、キャリア周波数の高調波が現れるので、高性能のBPFが後段に必要です。)

このように言い伝えとして語り継がれている「AM変調送信機は簡単にできる」という話は、実際に試作+動作確認するとそう簡単にはいかないということが、実回路実験でもspiceでも再現されます。

これは設計がもともと間違っていることが原因と僕は考えています。

(数学的には以下の計算になります。)

従来式のベース変調の動作を数式で書くと、

Vc=A*sin(ωc*t) 
Vaf=x(t)

Vam(t)=Vc+Vaf =A*sin(ωc*t)+x(t) ... ベース変調の式(1)

ここで x(t)=b(t)*sin(ωb*t) とおくと

Vam(t)=A*sin(ωc*t)+b(t)*sin(ωb*t) 

Vam(t)をリニア電圧増幅して、TRでG倍にすると仮定すると、

Vout(t)=G*{A*sin(ωc*t)+b(t)*sin(ωb*t)}
            =G*A*sin(ωc*t)+G*b(t)*sin(ωb*t)  

ここで、キャリア角周波数ω周辺にBPFをかますと
AF周波数成分ωbがカットされ、

BPF(Vout(t))=G*A*sin(ωc*t) ...ベース変調の式(2)  

ベース変調の式(2)は、無変調のキャリア信号です。
よって上記回路は、数学的計算でも、無変調になりました。


僕は、現在までずーと長い間、ラジオ関連専門誌を信じていました。


=>こちらの方式のほうが有望と思います。

ギルバートセル型乗算器を使ったAM変調送信機
http://ji1nzl-official.blogspot.jp/2015/09/cqam.html


参考にした資料:

[1]参考にしたベース変調回路

Rev. 0.1 文章推敲 12/12, 2016
Rev. 0.1 ベース変調回路が無変調キャリア信号になることの数式説明を追記 12/18,2016
Rev. 0.2 参考資料: ベース変調回路の参考資料・回路図を追加
Rev.0.2a 参考図[1]を非表示属性に変更、文章推敲(内容変更は無し)

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1 件のコメント:

  1. 初めまして。 仰せの通りです。どんどん突き進めてください。

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