2020年8月27日木曜日

VXO式水晶発振器を使ったFM変調器(TRIO/Kenwood TS-700)


図1. VXO式水晶発振器を使ったFM変調回路 10.7MHz VXO発振・変調部
(TRIO/Kenwood TS-700, copyright reserved by TRIO/Kenwood Co. Ltd.)

水晶発振器は、周波数または位相変化がほとんど無い安定した周波数で発振する特性があります。
このため、水晶発振器を使ったベクトル合成位相変調方式では、必要な周波数偏移
(40KH WFM zまたは20KHz NFM)を得るため、12MHz 近辺の小さな位相変調量を12逓倍して144-145MHz帯の必要な周波数偏移/位相偏移量を得るFM変調波を得る方式が、チャネル切り替え式自動車無線器(モービル無線)では多用されていました。

無線従事者国家試験でも、かつては、そうした水晶発振式ベクトル合成位相変調回路と逓倍回路が、FM変調方式出題の定番でありました。
しかし、例外的存在として、当時の人気機種と思われるTS-700(TRIO/Kenwood社)では、VXO方式の水晶発振回路について、水晶に直列するコイルとバリキャップ(可変容量ダイオード)によるFM変調方式が採用されていました。
発振周波数が10.7MHzと、こうした低い周波数でのFM変調は困難と考えられていました。

周波数偏移は、WFM/40KHz, NFM/20KHz と十分な周波数偏移が得られています。
前段のAFアンプは、TA7061 IC アンプによる、実に60dBという大変大きな電圧利得のハイゲイン・アンプになっています。[1]

その後、PLL式FM変調が主流になり、近代では、2000年を過ぎるころからDSPやマイコンによる数値演算式FM変調回路が主流となっています。

そうした数値演算式FM変調・復調を実現、理解するために必要となる、FM変調に関する計算式を図2.にまとめました。[2][3]
図2. FM変調関連の計算式

文献[2],[3]を参考にして、FM変調信号の電圧波形を時間の関数で書き、図2.にまとめました。




      図3. FM変調の計算波形    (Copyright reserved by MIT OCW 6.003, USA) 

MIT OCW 6.003を受講し、図3.に、FM信号電圧波形のアニメ画像を作りました。


     図4. FM変調の計算波形(自作オリジナル)

図4.は、Macbook Pro.(OSX Yosemite) で"Grapher"アプリを使い、図3.の計算を再現し、アニメ画像を作りました。


 図5. LTspice計算で再現した数値演算式FM変調波の過渡解析結果とFFT解析結果
(自作オリジナル)

図5.は、LTspice IV (Macbook pro. OSX Yosemite)にて、図3., 図4.と同じ数値計算を行い、
かつFFT解析で、周波数成分のスペクトルを見ました。
入力する低周波の変調周波数1KHzの偶数倍(2,4,6 倍,...)の周波数成分が見えています。
これはcos(βsinωt)によるサイン波をcos関数に入れ子にした演算結果によるものです。
sin(βsinωt)によるサイン波をsin関数に入れ子にした演算では、入力する低周波の変調周波数1KHzの奇数倍(1,3,5 倍,...)の周波数成分が現れます。これは、図2.計算式に従う結果です。

参考文献/参考資料:
[1] TS-700回路図 TRIO/Kenwood社
[2]MIT OCW 6.003 "Modulation2" , Apple iTunes, Youtube
[3]アナログ回路 電子書籍教科書 新原盛太郎さん

2020年8月17日月曜日

クワドラチュアFM復調回路の復調品質改良

以前、このブログに公開したクワドラチュアFM復調回路について、復調されるベースバンド信号の特性が、ごく簡単な方法でできることが判りました。

改良方式:

455KHz IFT の同調周波数を、キャリア信号のセンター周波数455KHzから約3KHz 下げる。このことにより、F/V変換回路の傾斜(スロープ)が線形特性に近似できるようになり、音質が大きく改善できます。

モトローラ社IC MC3357 で採用され、通信機にも広く普及した回路ですが、その動作原理が、長年、何も説明されないまま、時代が経過していたと思います。

以下、改良したクワドラチュアFM復調回路の、過渡解析(図1)とAC解析結果(図2)を示します。


        図1 クアドラチュアFM復調回路の過渡解析結果

説明:

中心周波数455KHz キャリア波の正弦波に、変調周波数1KHz (ベースバンド信号)のFM変調波を発生させ、10KΩの抵抗を通過した信号V1 と、コンデンサ10pFを通過して451KHz同調周波数とするLC共振回路に接続する信号V2 を乗算回路に入力。乗算されたアナログ電圧を、RC構成のローパスフィルタを通過した低周波信号V(OUT)を出力させます。

結果として、V(OUT)端子に、綺麗な形の1KHzの正弦波に近い復調信号が得られています。FFT解析結果は、復調信号に2次、3次・・・以上の高調波歪み信号が含まれていることを意味します。


図2 クアドラチュアFM復調回路のAC解析結果

説明:

端子V1, V2, V(OUT)の利得と位相ずれの量を、周波数軸400KHz〜500KHz帯域で見ています。

注目すべき点は、V2端子の利得の傾斜が455KHz中心にほぼ直線近似できる右肩上がりの傾斜(スロープ)特性を持っていることです。この直線近似される利得の傾斜特性から、入力されたFM変調波の周波数変化が、電圧の振幅変化に変換されることです。

このAC解析結果から、従来のクワドラチュアFM検波の説明では、クワドラチュア(quadrature)=直交の意味について、90度位相のずれた信号と、もともとのFM変調波を乗算させる、とされてきましたが、説明と命名に誤りがあったことがわかります。


参考文献

[1]モトローラ社 MC3357 FM復調IC データシート

[2]SANYO社 LA1800 AM/FM radio IC データシート

[3]SANYO社 LA1845 FM STEREO/ AM Radio IC データシート

[4]JRC社 NJM2550 データシート

https://www.njr.co.jp/products/semicon/communication_ic/fm_if?cat=4050

[5]JRC社 NJM2590/97 データシート 

[6]東芝 TA7792F AM/FM radio IC データシート

[7]東芝 TA8164P AM/FM radio IC データシート

[8]TRIO/Kenwood社 TS-670回路図

[9]インターネット上のquadrature FM decoder 資料、位相変化を利用した復調器

[10]OP Ampを使った位相シフト回路{本ブログ内記事中}

[11]Si4734/4735 データシート

[12]NS-73 データシート

[13]MIT OCW 6.003 “Modulation 2”

[14]FM変調講座資料 高知大学


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