2020年10月18日日曜日

トランプを使ったリード・ソロモン符号の符号化とエラー訂正法入門

 「QR コード」は、「リード・ソロモン符号」による符号化と、リトライ(データ再送)を必要としない前方エラー訂正手順(FEC)を含むプロトコルが使われているとのことです。

従来のシリアル・パケット・データ通信では、データエラーが発生した場合、パケット・フレーム単位のデータ送信をしなおすリトライ手順が使われてきましたが、「QR コード」では、こうした再送が不要となる革新的進歩がありました。

今回は、「リード・ソロモン符号」の入門として、トランプを使ったリード・ソロモン符号の復号化とエラー訂正法入門について、小学校3年生でもわかる簡単なデモ、という紹介の文献[1]を読み、読みにくかった部分をとりだして説明を再構成し、同文献に記述漏れのあった「剰余計算表」を新規考案して提示し、

(1)4枚のカードに、2枚の冗長データ・カードを加える符号化方法

(2)それら6枚のカード中に1枚のカードの数字データが伝送路で化けた場合に、それを訂正する復号化手順

とするデモ実例を以下に要点だけを要約してまとめました

(1)符号化方法(エンコード方法)

ここでは、次の4個(4バイト)のカード表現のデータに、2個(2バイト)の冗長データを追加した符号を送信するものとする。


・・・以上のように、数字=7 数字=13 冗長データが求まったので、先の4個のカードに続けて次のようにカードをつなげる。

ここで、あらかじめ、次の「剰余計算表」を作成しておく。
剰余計算表は次の計算ルールにより作成する。

(A) S1 = mod(a+b+c+d+e+f, 13) ... 数字S1は、カード a+b+c+d+e+f  を計算した整数を、素数13で割った余りの整数

(B) S2 = mod(a+2b+3c+4d+5e+6f, 13) ... 数字S2は、カード a+2b+3c+4d+5e+6f を計算した整数を、素数13で割った余りの整数

(C) T は、データが化けて誤ったカードの位置を意味する整数で、T={1,2,3,4,5,6} の集合で、
 式 S1xT=S2 を満たす。

 剰余計算表


(2)データ・エラー修正の復号化手順



・・・このように、誤ったカード9 を、訂正するカード2 で置き換え、データ修正する。


(3)QR code の生成例

携帯電話の「バーコード」機能で読み取れます。
(デコードの実験時は、2つのQRコードのどちかかを、画面をスクロールして隠して下さい。)








課題:
(1)トランプカードでは、最大の素数が13なので、剰余数は14, 15を仮定せずにすむ。
これが4ビットのデータビット表現BCDコードとした場合、0x00,0x01,..,0x0C,0x0D,0x0E,0x0F
の16種類のパターン数になり、最大数の素数17として剰余数を変更したい。
(2) 項番#(1)に合わせ、剰余計算表を、最大素数17として再定義し、エラー訂正計算アルゴリズムを変更すること。

参考資料:

[1]誤り訂正技術のしくみのデモンストレーション例 

―小学校の剰余計算の学習のみを前提とするリード・ソロモン符号の変形例―

A Demonstration Example of Mechanism of Error Correction ―A Modification of Reed-Solomon Code Assuming Only Learning of Remainder Calculation at Elementary School―

中村博文先生, Hirofumi NAKAMURA (平成 29 年 10 月 2 日) 

(Respective Copyright Reserved)

履歴:
0.1 : 2021/01/10  
最大数の素数17として剰余数を変更するアルゴリズム変更について課題を追記。  

ブログ記事目次へ戻る

2020年9月11日金曜日

PIXIE 7MHz CW 簡易トランシーバの動作と課題をLTspiceで再現する

 汎用小型トランジスタ2N3904 (東芝 2SC1815とほぼ互換で、より高性能) 2石と、オーディオアンプIC LM386 1個だけで、100mWの7MHz トランシーバができる、と話題と人気をよんだ米国製PIXIEの送信動作と、実機動作で初めてわかったAM放送810KHzの混信(通り抜け)現象が、LTspiceでそっくりに計算で再現できることがわかりました。

      図1. AM放送810KHzの混信(通り抜け)現象の再現(過渡解析結果)

図1.は、PIXIE のアンテナ端子に、50Ωのダミーロードと、擬似的なAM放送局810KHz
のAM変調信号、AF変調信号1KHz , RFキャリア最大値100mVをサイン波による電圧源で構成し、混信する信号をPIXIE へ与えています。

ネットに報告されている米軍放送局 810KHz の1KHz変調波が良く聞こえる課題が、LTspiceでも再現しました。

      図2. AC解析によるPIXIEの受信感度の解析(出力電圧の線形値表示)

目的周波数の7MHzで感度が最大になる設計が望ましいのですが、回路指定条件では、
800KHz近傍で感度が非常に良くなり、7MHzは、ちょっと残念な感じの感度特性が求まりました。
このAM放送領域の感度を抑制する手段があると、より実用的になると思います。
既に改良例がネットにありました。


        図3. AC解析によるPIXIEの受信感度の解析(出力電圧の対数値表示)

PIXIEは、7MHz CW信号にゼロインすると、無音のゼロビートであるDC電圧が出力されます。
このため、このDC電圧で、別途用意する低周波発振器をアサートして、ピーという低周波音を
発生させるBFO動作をさせている応用例があります。

      図3. 送信動作の過渡解析結果

送信動作は、無調整発振回路の信号純度が良ければ、問題無く100mWの送信出力が得られました。
送受信動作は、リレーや、ダイオードRFスイッチが不要で、D1の 1N4148 でフルブレークイン動作が大変シンプルかつスマートに実現されています。

巻線コイルを作る必要が無く、市販の一般的な少数の部品だけで遊べることが魅力と思います。水晶も7.030MHzは、特注せずに、通販でも購入できます。

参考にした記事:
・ネット上のPIXIEに関する実験記事のいくつか。


2020年9月5日土曜日

ベッセル関数(第一種)の正体の謎を探ることと、FM復調理論の数学的基礎のレビュー結果

 ベッセル関数(第一種)の正体の謎を探ることと、FM復調理論の数学的基礎のレビュー結果

目的:

FM変調の技術解説に頻繁に登場する「ベッセル関数(第一種)」とは何者なのか、その正体について、数学的性質と電気的な定性的・本質的な意味を明らかにする。



解決しようとする課題:

(1)FM変調の技術的解説に現れる「ベッセル関数(第一種)」の数式を明示すること。

(2) #(1)に関する「ベッセル関数(第一種)」の持つ数学的性質と電気的意味とを明示すること。

(3) 各種の文献に見られる同関数の未定義状態や意味のわかりにくさに伴って発生するモヤモヤの正体を明らかにする。

(4)FM変調を数式で表現し、そこから「ベッセル関数(第一種)」を導出を試みる。


結論:

(1)入力する低周波信号を βsin(ωt) と、角周波数ωと振幅βのsin波と特殊化する時、

FM変調波は、位相変化量を βsin(ωt)[rad]とする位相変調の式として、

   Vfm(t)=Acos(Ωt+βsin(ωt)) , ここで加法定理より

             =A{cos(Ωt)*cos(βsin(ωt)) - sin(Ωt)*sin(βsin(ωt)) } 

と書ける。

この式の意味は、「互いに直交関係にある高周波キャリア信号 Acos(Ωt), Asin(Ωt) に、三角関数の入れ子構造になったところの、互いに直交関係にある 低周波FM変調信号 cos(βsin(ωt)), sin(βsin(ωt))のそれぞれを、三角関数に三角関数を入れ子にした関数とし、アナログ乗算して、電波電圧信号Vfm(t)を送信すること」、の意味と解釈できる。


ここにおいて、直交関係にある低周波 FM変調信号 cos(βsin(ωt)), sin(βsin(ωt))のそれぞれは、前者が、変調用基本波 βsin(ωt) に対して、偶数倍の高調波信号の無限級数となり、後者が、奇数倍の高調波信号の無限級数となって、FM変調波として周波数帯域が広がる特性を持つ。

それらの直交関係にある低周波 FM変調信号 cos(βsin(ωt)), sin(βsin(ωt))のそれぞれが、FM変調信号の振幅電圧最大値(係数)について、後述する第一種ベッセル関数(第一種) Jn(β) と呼ばれる関数値で表現できる、と考えられる。


もともとマイク等から入力する低周信号は、特殊化した一つの理想的sin波として、

 x(t) = βsin(ωt) 

と書ける。 {一般式は,x(t)=Σ(αi・sin ωit +βi・cos ωit) }

これを高周波キャリア信号波 Acos(Ωt) の位相 Ωt に加算して(位相変調として)載せると、

高周波のFM変調波は、次式で書け、

Vfm=Acos(Ωt+βsin(ωt)) 、加法定理により、

      =A{cos(Ωt)*cos(βsin(ωt)) - sin(Ωt)*sin(βsin(ωt)) } ・・・式(1)

と書ける。


この式(1)による高周波のFM変調波電圧式について、

sin関数の入れ子の式が現れている。

cos(βsin(ωt)) 、sin(βsin(ωt))

この2つの三角関数を入れ子構造にする式の演算値は、

低周波基本波 βsin(ωt) に対して、

 sin(βsin(ωt)) が、低周波基本波とその奇数倍の高調波成分の無限級数式、

 cos(βsin(ωt))   が、低周波基本波の偶数倍の高調波成分の無限級数式となる。

そして、それら振幅電圧値が、以下に示すベッセル関数( 第一種)Jn(β)の値となる。

 上の計算式の3行目の式  Jn(β)が、ベッセル関数( 第一種)の式、

その下の式、

cos(βsin(ωt)) の右辺が、低周波基本波の第二高調波以降の偶数次高調波の無限級数式。

さらにその下の式、

sin(βsin(ωt)) の右辺が、低周波基本波と、第三第高調波以降の奇数次高調波の無限級数式である。


(2) 「ベッセル関数(第一種)」の持つ電気的意味と数学的性質

前述の式のように、ベッセル関数Jn(β)の2Jn(β)が、FM変調波帯域内に存在する高調波成分の角周波数 2nω、または、(2n+1)ω に対する、振幅電圧最大値を意味する。


cos(βsin(ωt)) の右辺が、低周波基本波の第二高調波以上の偶数次高調波の無限級数式で、

さらにその下の式、sin(βsin(ωt)) の右辺が、低周波基本波と、第三第高調波以上の奇数次高調波の無限級数式を表現する。


よって、角周波数ωを横軸にとり、角周波数 2nω、または、(2n+1)ω に対する、振幅電圧最大値 2Jn(β) を縦軸にとりグラフを描くと、FM変調波に対するそれら高調波成分の分布状態とFM変調波の帯域幅を知ることができる。


(3) 各種の文献に見られる同関数の未定義状態、意味不明の記述、わかりにくさに伴って発生するモヤモヤの正体


おそらく、各種文献に、説明の論理や理解度にばらつきがあり、過去文献のコピペのような切り貼り編集方法で書いているので、読んだ側では意味不明の混乱した理解状態に陥り、何かがわからないが、何がわからないのかもわからない気分、と、モヤモヤと感じるのではないか(?)と思われる。


ここに、文献から読み取れないか、わかりにくいFM変調の性質を、次に列挙し明示する。


  1. ベッセル関数(第一種)が、突然、天下り的に文献に現れるが、ベッセル関数が持つFM変調電圧に関わる電気的意味が説明されていないので、文字通り、説明そのものが無いゆえに、その関数の意味と、使用する目的が全くわからない。

(理解するための説明が無い、結果だけが示される説明法になっている。)

=> ベッセル関数Jn(β)を用いた演算値である、 2Jn(β)の値が、角周波数 2nω、または、(2n+1)ω の正弦波に対する、振幅電圧である。


  1. FM変調波は、計算可能な周波数帯域幅を持つ。

その周波数帯域は、FM変調のために入力する低周波信号 βsinωt の奇数倍の高調波成分と、偶数倍の高調波成分により構成されている。

このFM変調電波の高調波成分の存在と、その周波数帯域の性質の説明がうまく伝わっていなかった。


  1. なぜ三角関数 sinx, cosx で、位相の変数 x が時刻 t の線形の式(直線の式 ωt+θ)の場合{ sin(ωt+θ), cos(ωt+θ) }は、単一角周波数ωのsin波またはcos波になるのに、三角関数sinを入れ子構造にすると、整数倍の高調波信号である歪み電圧成分が出てくるのか?


この理由は、数学的に三角関数 six, cosx が、マクローリン展開[5]できて、その式が、一次、二次、三次・・・の級数式が非線形となっている性質と、x:=sinωt として、非線形の性質を持ち、さらに、その マクローリン展開式によるべき乗の非線形演算の必然的な演算結果に従っていることが、FM変調に内在する原理的な本質的原因である。

    

   例えば、マクローリン展開式のx^2 の二次の項は、

   x^2=(βsin(ωt))^2 =β^2{sin(ωt))}^2 =β^2{(1/2){1-cos(2ωt)}} 

   ・・・このように2倍高調波成分と直流電圧成分となる。


同様にx^n=(βsin(ωt))^n ・・・これは、第n高調波以下の多重の周波数成分を含む。

この計算規則が、三角関数を入れ子構造にすると、無限の整数倍の高調波成分が現れる性質を、言葉による数学的な説明の曖昧さを完全に除去し、数式とその演算値で、明示的に説明できる。

  

  1. #(c)で書かれた低周波の高調波成分が実在するので、FM変調波をFMラジオで復調したら、高調波歪み成分が現れ、音質が悪くなるのではないか? というFM復調方式への心配の気持ちが起こる。

=>

FM変調波の復調方式は、入れ子構造の低周波信号sin(βsinωt)とcos(βsinωt)のどちらかの信号から、sin関数の逆関数 arcsin関数、またはcos関数の逆関数 arccos関数を用い、arcsin(sin(βsinωt))=βsinωt の演算か、arccos(cos(βsinωt))=βsinωt の演算を行えば、復調時の高調波歪みが数学的に完全に無い演算結果が βsinωt となる。

これは、もともと歪みの無い低周波信号そのものを数値演算でデジタル値の信号処理できることを意味する。

現代のマイコンやDSPを使った数値演算復調では、この歪みのないFM復調が実現可能になっていると推測できる。(現代のIC化されたFM/AMラジオ回路やソフトウェアはブラックボックスのため、内部論理/設計内容は全く見えなくなっている。)


一方、従来のアナログ式FM復調では、x ≒ sinx , x ≒ arcsinx のアナログ回路で近似演算する性質[1]を使っているため、x が0から大きく離れる振幅の大きな低周波信号を入力されたFM変調波の復調電圧には、マクローリン展開の一次式近似計算誤差による歪みが存在しているが、これまでは、暗黙の曖昧な理解度において、実用上微小な電圧歪みとして無視され、二次式以降の計算誤差は切り捨てられ、説明されてこなかった経緯があるようである。

(音質が良いと言われてきた従来のアナログ式FM復調ラジオは、復調音に、理論的に必ず二次以上の高調波歪み成分が残留している。)


ここにきてFM変調におけるベッセル関数の周辺で感じる、モヤモヤの霧が晴れて、目も前の視界がクリアに見えるようになった。


(4)FM変調を数式で表現し、そこから「ベッセル関数(第一種)」を導出を試みる。


調査した範囲では、この数学的導出を行っている計算例は、現在見つかっていない。

不完全ながら、ここでは前述のようにsin(x)関数、cos(x)関数をマクローリン展開してから、x=βsin(ωt) を代入すると、文献[1]にあるベッセル関数式(第一種)と非常に良く似た級数展開式が得られることが、以下の計算過程により判った。


関数 f(x)=sinx のマクローリン展開を行うと、

sinx=x -1/(3!)・x^3 +(1/(5!))・x^5+ … +(-1)^n/(2n+1)! ・x^(2n+1)+ …

       =  Σ(n=0 to ∞) (-1)^n/(2n+1)! ・x^(2n+1) ・・・式(2) を得る。


式(2) で、 x := βsinωt を代入すると、

sin(βsin(ωt))=Σ(n=0 to ∞) (-1)^n/(2n+1)! ・(βsinωt)^(2n+1)

                    =Σ(n=0 to ∞) (-1)^n・β^(2n+1)/(2n+1)! ・(sinωt)^(2n+1) ・・・式(3) を得る。


同様に 関数 g(x)=cosx のマクローリン展開を行うと、

cosx=1 -1/2! ・x^2 + 1/4!・x^4+ … +(-1)^n / (2n)! ・x^(2n)+ …

      =  Σ(n=0 to ∞) (-1)^n / (2n)! ・x^(2n) ・・・式(4) を得る。


式(4) で、 x := βsinωt を代入すると、

cos(βsin(ωt))=Σ(n=0 to ∞) (-1)^n/(2n)! ・(βsinωt)^(2n)

                     =Σ(n=0 to ∞) (-1)^n・β^(2n)/(2n)! ・(sinωt)^(2n) ・・・式(5) を得る。


式(3)は、低周波基本波 sinωt  の角周波数ωの奇数倍の高調波を含む電圧を加算した無限級数、式(5)は、低周波基本波 sinωt  の角周波数ωの偶数倍の高調波を含む電圧を加算した無限級数となる。


ここに、ベッセル関数( 第一種)[1]と完全に同型ではないが、 それと大変よく似た電圧係数と、βsinωt を基本波として、その奇数倍の高調波の無限級数と、偶数倍の高調波の無限級数が求まった。




残された課題:


1 式(3)、式(5)が、ベッセル関数(第一種)を係数とするβsinωt を低周波基本波として、その奇数倍高調波の無限級数と、偶数倍高調波の無限級数であることの数学的正しさを証明を要すること。

{式(3)(5)をベッセル関数(第一種)に変形する計算法が現在不明である。

このため文献[1]に記載されたベッセル関数が本当に正しい計算式になっているのか確証がとれていない。

ただし、ベッセル関数と式の形は異なるが、実用計算上は、式(3)、式(5)を使って、この式で、高調波成分と周波数帯域を数値計算可能である。}

 

2  Vfm(t) の式中、位相内の∫ x(t)dt は、なぜ、低周波入力信号x(t)を時間積分する必要があるのか明らかにする。


付録;

FM受信機(製品例)の受信動作例 (AOR社 AR-3000A)


参考文献/参考資料:

[1]アナログ回路 電子教科書 analog_sys.pdf 新原盛太郎様

[2]NI社様 FM変調資料

[3]FM変調解説資料 高知大学殿

[4]MIT OCW 6.003 Signals and Systems, “Modulation 2”

[5]高校数学教科書 数Ⅰ/ 数Ⅱ / ⅡB /Ⅲ (文科省認定済)

   三角関数,二項定理,三角関数の倍角の公式、テイラー展開、マクローリン展開 等




2020/09/05 ドラフトの暫定版投稿



2020年8月27日木曜日

VXO式水晶発振器を使ったFM変調器(TRIO/Kenwood TS-700)


図1. VXO式水晶発振器を使ったFM変調回路 10.7MHz VXO発振・変調部
(TRIO/Kenwood TS-700, copyright reserved by TRIO/Kenwood Co. Ltd.)

水晶発振器は、周波数または位相変化がほとんど無い安定した周波数で発振する特性があります。
このため、水晶発振器を使ったベクトル合成位相変調方式では、必要な周波数偏移
(40KH WFM zまたは20KHz NFM)を得るため、12MHz 近辺の小さな位相変調量を12逓倍して144-145MHz帯の必要な周波数偏移/位相偏移量を得るFM変調波を得る方式が、チャネル切り替え式自動車無線器(モービル無線)では多用されていました。

無線従事者国家試験でも、かつては、そうした水晶発振式ベクトル合成位相変調回路と逓倍回路が、FM変調方式出題の定番でありました。
しかし、例外的存在として、当時の人気機種と思われるTS-700(TRIO/Kenwood社)では、VXO方式の水晶発振回路について、水晶に直列するコイルとバリキャップ(可変容量ダイオード)によるFM変調方式が採用されていました。
発振周波数が10.7MHzと、こうした低い周波数でのFM変調は困難と考えられていました。

周波数偏移は、WFM/40KHz, NFM/20KHz と十分な周波数偏移が得られています。
前段のAFアンプは、TA7061 IC アンプによる、実に60dBという大変大きな電圧利得のハイゲイン・アンプになっています。[1]

その後、PLL式FM変調が主流になり、近代では、2000年を過ぎるころからDSPやマイコンによる数値演算式FM変調回路が主流となっています。

そうした数値演算式FM変調・復調を実現、理解するために必要となる、FM変調に関する計算式を図2.にまとめました。[2][3]
図2. FM変調関連の計算式

文献[2],[3]を参考にして、FM変調信号の電圧波形を時間の関数で書き、図2.にまとめました。




      図3. FM変調の計算波形    (Copyright reserved by MIT OCW 6.003, USA) 

MIT OCW 6.003を受講し、図3.に、FM信号電圧波形のアニメ画像を作りました。


     図4. FM変調の計算波形(自作オリジナル)

図4.は、Macbook Pro.(OSX Yosemite) で"Grapher"アプリを使い、図3.の計算を再現し、アニメ画像を作りました。


 図5. LTspice計算で再現した数値演算式FM変調波の過渡解析結果とFFT解析結果
(自作オリジナル)

図5.は、LTspice IV (Macbook pro. OSX Yosemite)にて、図3., 図4.と同じ数値計算を行い、
かつFFT解析で、周波数成分のスペクトルを見ました。
入力する低周波の変調周波数1KHzの偶数倍(2,4,6 倍,...)の周波数成分が見えています。
これはcos(βsinωt)によるサイン波をcos関数に入れ子にした演算結果によるものです。
sin(βsinωt)によるサイン波をsin関数に入れ子にした演算では、入力する低周波の変調周波数1KHzの奇数倍(1,3,5 倍,...)の周波数成分が現れます。これは、図2.計算式に従う結果です。

参考文献/参考資料:
[1] TS-700回路図 TRIO/Kenwood社
[2]MIT OCW 6.003 "Modulation2" , Apple iTunes, Youtube
[3]アナログ回路 電子書籍教科書 新原盛太郎さん

2020年8月17日月曜日

クワドラチュアFM復調回路の復調品質改良

以前、このブログに公開したクワドラチュアFM復調回路について、復調されるベースバンド信号の特性が、ごく簡単な方法でできることが判りました。

改良方式:

455KHz IFT の同調周波数を、キャリア信号のセンター周波数455KHzから約3KHz 下げる。このことにより、F/V変換回路の傾斜(スロープ)が線形特性に近似できるようになり、音質が大きく改善できます。

モトローラ社IC MC3357 で採用され、通信機にも広く普及した回路ですが、その動作原理が、長年、何も説明されないまま、時代が経過していたと思います。

以下、改良したクワドラチュアFM復調回路の、過渡解析(図1)とAC解析結果(図2)を示します。


        図1 クアドラチュアFM復調回路の過渡解析結果

説明:

中心周波数455KHz キャリア波の正弦波に、変調周波数1KHz (ベースバンド信号)のFM変調波を発生させ、10KΩの抵抗を通過した信号V1 と、コンデンサ10pFを通過して451KHz同調周波数とするLC共振回路に接続する信号V2 を乗算回路に入力。乗算されたアナログ電圧を、RC構成のローパスフィルタを通過した低周波信号V(OUT)を出力させます。

結果として、V(OUT)端子に、綺麗な形の1KHzの正弦波に近い復調信号が得られています。FFT解析結果は、復調信号に2次、3次・・・以上の高調波歪み信号が含まれていることを意味します。


図2 クアドラチュアFM復調回路のAC解析結果

説明:

端子V1, V2, V(OUT)の利得と位相ずれの量を、周波数軸400KHz〜500KHz帯域で見ています。

注目すべき点は、V2端子の利得の傾斜が455KHz中心にほぼ直線近似できる右肩上がりの傾斜(スロープ)特性を持っていることです。この直線近似される利得の傾斜特性から、入力されたFM変調波の周波数変化が、電圧の振幅変化に変換されることです。

このAC解析結果から、従来のクワドラチュアFM検波の説明では、クワドラチュア(quadrature)=直交の意味について、90度位相のずれた信号と、もともとのFM変調波を乗算させる、とされてきましたが、説明と命名に誤りがあったことがわかります。


参考文献

[1]モトローラ社 MC3357 FM復調IC データシート

[2]SANYO社 LA1800 AM/FM radio IC データシート

[3]SANYO社 LA1845 FM STEREO/ AM Radio IC データシート

[4]JRC社 NJM2550 データシート

https://www.njr.co.jp/products/semicon/communication_ic/fm_if?cat=4050

[5]JRC社 NJM2590/97 データシート 

[6]東芝 TA7792F AM/FM radio IC データシート

[7]東芝 TA8164P AM/FM radio IC データシート

[8]TRIO/Kenwood社 TS-670回路図

[9]インターネット上のquadrature FM decoder 資料、位相変化を利用した復調器

[10]OP Ampを使った位相シフト回路{本ブログ内記事中}

[11]Si4734/4735 データシート

[12]NS-73 データシート

[13]MIT OCW 6.003 “Modulation 2”

[14]FM変調講座資料 高知大学


ブログ記事目次へ戻る

2017年11月11日土曜日

従来式AM終段コレクタ変調方式送信機のマイナス変調の計算再現とその原因

随分以前(おそらく1970年頃?)から現在(2017年12月)でも、日本国内では「AM終段コレクタ変調方式」によるAM送信機は大変有名な方式で、現在でも無線技術専門書籍やインターネット上の記事に、その応用回路例が多数見られます。

この方式は「マイナス変調」と呼ばれる現象が発生しやすいことが、実験的も、経験的にも広く知られています。僕も、この「マイナス変調」の現象を、高校時代の最初の本格的無線機(設計目標仕様AM出力5W)製作・実験の過程で経験しましたが、当時は、ついにこの現象を解決できませんでした。

「マイナス変調」とは、AM送信機にベースベンド変調信号である音声を入力すると、送信キャリア電圧が下がり、変調を深くするほど、そのキャリア電圧の下がり具合が大きくなります。同時に、送信電力も減少します。(音声をマイクへ向けてしゃべると、RFパワー計の針が下がりました。)

この現象は、トランジスタアンプの動作をA級またはAB級にして、かつトランジスタ負荷インピーダンスの高い小電力回路にして出力を下げると、例えば0.1W〜0.2W程度までは、なんとかプラス変調で動作します。しかし、それ以上の負荷インピーダンスが低い大電力に上げてゆくと、この「マイナス変調」の発生を避けることは不可能になりました。
(これは、実製作と実験で確認しました。)

図1. マイナス変調を起こしているAM送信機の例(BJT TR終段コレクタ変調方式)

図1.に、あえて国内では実用になると言われているC級アンプを構成し、1MH zキャリアを入力し、変調トランスを介して低周波アンプ信号で、「終段コレクタ変調」をかけてる様子をLTspiceで計算しました。
このように「マイナス変調」現象は、実際の実験と同様に、spice計算でも再現しています。

図1.では、低周波変調を深くかけるほど、無変調時のキャリア電圧よりも変調時の電圧が低くなる現象と、変調された送信電力が下がる現象が見られます。

図2. Cクラストランジスタアンプの高周波アンプの歪み発生の過渡解析とFFTスプリアス解析

図2.には、あえて、CクラスRFアンプを2N2222で構成し、その電気的動作の過渡解析および、スプリアスのFFT解析で、結果を示しました。

Cクラスアンプでは大きな歪みが発生することが電子工学でも基礎知識として良く知られています
図2でもコレクタ電圧は、ほぼ矩形波のような形状にまで歪み、奇数次のスプリアスが強力に出ていることがわかります。

この過渡解析では、高周波(1MHz)での過渡時間解析にて、トランジスタのhFE(=Ic/Ib)が、極めて短周期で動的に大きく変化する様子や、コレクタ電圧Vce がベース電圧Vbe より低くなる様子(コレクタ電流の飽和現象)が起こっておりマイナス変調を引き起こす原因(コレクタ電流飽和の動作点近辺でhFEが下がる)となる現象が見られます。

図3.1    2N2222 のhFE(電流増幅率特性 Vbe = 0.35[V]〜1.19[V] )

図3.1のように、BJT TR 2N2222 の電流増幅率(hFE=Ic/Ib)は、電源電圧Vcc=12V 固定、負荷抵抗=100[Ω]固定の条件では、Vbe(ベース・エミッタ間電圧)をDCスキャンすると、コレクタ電流Ic(Q1)が上昇して飽和状態に近づく動作点近辺で、急激に下降する特性が見られます。

すなわち、ベース電圧Vbeに高周波電圧が加わり、その電圧が上がってくると、hFEがほぼ一定で調子良く増幅できていたのに、Icが飽和してくるとhFE値が低下するために、コレクタ端子の出力電圧Vceは低下することになります。
このコレクタ電流が飽和状態に近づく動作点近辺で、電流/電圧増幅度が、一定から下降へ転ずる特性のために、マイナス変調が発生すると考えることができます。

図3.2   2N2222 のhFE(電流増幅率特性 Vbe = 0.00[V]〜1.50[V] )

BJT TRには、Vbe=0.3[V]近辺で、hFEが非常に高くなる良く知られていない謎の特性領域がありそうです。


この従来式AM終段コレクタ変調方式は1970年代に考案されたと思われ、国内の一部の通信機製品に一時期だけ採用されました。この方式はメーカでは短期間で不採用になっていますが、一方、専門技術書籍や実験機作成事例では、現在でも同方式の採用と不具合発生が大変多く続いており、方式課題の存在と解決方法の理解がほとんど進んでいない足踏み状態であることがわかってきました。
今後の設計文化の改善課題の一部と考えます。

ブログ記事目次へ戻る

Rev.0.1 : トランジスタ 2N2222のVbe:電流増幅率hFEの静的特性のグラフ図3.1, 3.2とその説明文を追記。(2020/11/17)


ミュー同調式手作りゲルマニウム・ラジオで放送が聞こえない現象の原因解明

Why "Boy scout radio" (Crystal Radio 1997 US) cannot stay tuned on AM/MW ?

1997 ARRL式「ボーイスカウト・ラジオ」(日本語名:ゲルマニウム・ラジオ)は、中波AM放送局にうまく同調できる場合と、同調が非常に難しい場合があるという異なる現象が報告されています。
こうしたほぼ同じ設計のクリスタル・ラジオが、作る人により、中波AM放送を、うまく受信できる場合と、受信できない場合と、異なる動作となる現象が出る原因を解析しました。

その結果、ダイオード内部のPN接合部にある小容量のコンデンサ成分C1[F]と、クリスタル・イヤホンの等価容量C2 = 0.02[uF] が、高周波特性上、C = 1/(1/C1+1/C2) の合成直列容量を構成し、この合成容量Cが大変小さい容量になるため、共振周波数 f=1/(2π√(LC)[Hz]  が、市販のバーアンテナを使った場合より、非常に高い短波帯の周波数に同調するため、目的の中波AM放送が受信できない現象が出ることがわかりました。

目的の中波AM放送を受信するには、コイルの巻数を大幅に増やし、5000[uH]のように大変大きくして、LC共振周波数を下げ、中波放送局の周波数に同調させることで問題が解決できることがわかりました。

図1

図1は、大変大きな巻数のコイル5000[uH] (=5[mH])を使用した場合の、RF同調利得と、出力されるベースバンド信号1[KHz]とその高調波成分を示したものです。
この回路の特徴は、ミュー同調と呼ばれるコイルのインダクタンスを変化させることで放送局を選曲しますが、並列LC共振回路にみられるコンデンサがない構成になっています。

こうした一見コイルだけに見えるラジオが、なぜ、ラジオ放送に同調できるのか、非常に不思議に見えます。
この構成では、LC同調コイルに無いように見えるコンデンサが、ダイオード内部のPN接合容量C1[F]と、クリスタル・イヤホンの等価コンデンサ容量C2[F]が直列接続され、大変小さい容量の直列型合成コンデンサ C=1/(1/C1+1/C2)[F] を構成するため、一般のバリコンの容量より相当に小さなコンデンサ容量になり、その分だけ、大きなインダクタンス 例: 5000[uF]になるよう、たくさんの回数コイルを巻いた大きなコイルが必要になることがわかりました。

一般の市販バリコンを使用する場合は、バーアンテナなど  例 : 600[uH] と、約一桁分小さなインダクタンス値のコイルを使用すれば、目的の中波放送に同調できそうです。

図2

図2.は、手作りの大きなコイル 5000[uH]を一個使い、同調用コンデンサを使わない構成のラジオが、1KHzの放送局のベースバンド信号を復調できている状態を再現したものです。
このラジオは、一見すると並列LC共振による同調コンデンサが見当たらないため、不思議な構成になっていますが、これが中波放送局に同調できる秘密は、巻数の大変多い大きなインダクタンス値のコイルを使っていることに、その謎が隠されていました。

図3

図3は、クリスタル・イヤホンC3の等価容量 0.02[uF]を 抵抗1m[Ω] でほぼショート状態にしたものです。
図3では、図1で見られた中波放送の周波数領域に同調する特性が失われ、放送が全く受信できない同調特性になってしまっています。
ここでは、ダイオードD1のPN接合容量が大変微小であるため、このような共振現象が見られない特性になっています。

図4

図4は、ダイオードD1をショートして、ラジオの同調特性を見たものです。
並列LC共振コイルは、クリスタル・イヤホンの等価容量が0.02[uF]と、通常のバリコンとは桁違いに大きな静電容量になるため、同調周波数は約17KHzと、中波帯放送局の周波数から大きく離調しています。

図5

図5は、図4と同じ状態で、ダイオードをショートしているので、検波動作がおこらず、緑色の信号は、検波されていない信号が、クリスタル・イヤホンに現れています。

日本国内でも、同じミュー同調方式で、共振用LC同調回路のコンデンサを省略した手作りゲルマニウム・ラジオが見られ、放送受信に成功している自作例を見ると、一般のバーアンテナよりかなり大型で、たくさんの巻線によるコイルが使われているのがわかりました。

手作りで、5000[uH]という大きなコイルを作るのは、インダクタンスメータ等の測定器がないと、大変困難で、相当に苦労しても中波放送が受信できない、という事例が起こっているようです。