2017年2月21日火曜日

N-MOS FET , JFETの特性の調べ方、選択方法 ( LTspice 対応)

課題:

設計過程:

(1)LTspiceでJFET, NチャネルMOSFETを選択するとそれらの一覧表が表示される
しかし、多数の知らない名前のFETばかりで、どれを選んだら良いかわからない。
このため、FETを使用する回路設計が先に進めない。

技術的課題:
(2)Vth(バイアス電圧)をいいかげんな暫定的な値に設定すると、ACゲインがマイナスの利得となり、増幅が起こらない。

(3)JFETを選択、ゲート抵抗を1MΩなどの大きな値でGNDに落とすか、または、ネット情報のバイアス電圧をVcc/Vdd電圧を分圧して与えると、増幅せずに減衰するアッテネータ動作か、利得がとれても数dBと大変小さくなることが多い。

原因:
・どのFETがどの周波数まで、どのくらいのゲインで使えるか情報がない。
・FETのVth(ゲートバイアス電圧)は、デバイス毎にばらばらで一定でない。
・JFETはVgs=マイナス電圧側から0V中心にIds電流変化領域があるものが多い。
 Vgs=0VまたはVgs≒0Vのプラス電圧では利得は小さいか、利得は0になる。
・MOSFET N-channel は、Vgs >0 正電圧にバイアス電圧をとるが、このVthに達していないと、増幅は起こらず、
 利得はマイナスになる。(AC解析をすると、利得がマイナスになる。)

0. FET選択の選択/判別のノウハウ:

    次の基準を目安にLTspiceのFET選択画面から使えそうな小信号用FETを選ぶ。

・Rds(ドレイン-ソース間ON抵抗)が1000mΩより大きいものが、小信号増幅用FETである。
・Rdsが数mΩと小さいものは、大電流スイッチング用である。
・Rdsが大きいほど利得は40dB程度と、AF領域で大きくなる。
・周波数が高くても使えるFETは、Cgsが10nC未満のゲート~ソース間容量が小さいものが良い。

1. DC解析によるデバイス特性の把握手順

VDS= 最大Vds/2 とする。

RL = 10K,5k,2k,1k,500,200,100,50,20,10 と負荷抵抗を

.step param list RL 0K,5k,2k,1k,500,200,100,50,20,10

で、

.DC 0V 5V 

でDC解析し、Idsが立ち上がり始めるVth電圧、Vth電圧範囲を見つける。

2. AC解析による周波数特性(周波数:利得)の把握

#1で求めたVth電圧を、ソース入力電圧のオフセットバイアス電圧に設定し、

.ac dec 100 1 200Meg

周波数利得の変化を知る。

3. 調査したFETの特性を一覧表として作成する。(図1.)


図1. N-MOS FET特性の調査(一例:ここでは一部データに限定)

関連文書:

小信号・高周波/RF JFETアンプの設計法を探る(2SK241,2SK192対応)




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2017年2月19日日曜日

低感度用途向け(強電界送信電波モニター用)ダイオードDBMダイレクト・コンバージョン受信機

ダイオードDBMで、ダイレクト・コンバージョン受信機を構成した場合、どの程度の受信感度が得られるか調べて見た。

図1.1,  図1.2 に示すように、600KHz AM変調波は、感度は非常に低く-100dBを下回る。
OSC出力電圧は、ダイオードDBMでは1.0[V]程度必要と書籍に書かれてきたが、それでは大きすぎ、この応用では200[mV]程度でもDBMに歪みが現れてしまう。

0.6[V]〜0.7[V]でダイオードがON状態になる従来の説は、ショットキーダイオード BAT54でも当てはまらなかった。

既述のように、高周波領域ではダイオードに高周波電圧を貫通する性質が現れるため、100[mV]の小信号電圧でも十分にMixerとして動作する。

図1.1 ダイオードDBM式ダイレクト・コンバージョン受信機

図1.2 ダイオードDBMダイレクト・コンバージョン受信機

感度が低いので、放送受信には向かず、強電界下のAM/SSB/DSB送信モニタ受信機として使えると思われる。

従来のリング変調器の動作は、ダイオードがON/OFFするスイッチング動作で説明されているが、実際のダイオード動作では、もっと小さな小信号電圧100[mV]でも周波数変換動作が起こる。


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2017年2月18日土曜日

ワイド・ダイナミックレンジ動作を目指す高周波/RFミキサー回路

1. BJTトランジスタ ギルバートセル乗算器による高周波/RFミキサー回路
 (図1.1, 図1.2)

スプリアスの少ない周波数変換が出来ている。
若干の利得もある。

利得は定電流源の電流量と負荷抵抗で設定できる。
この回路は実用的と見積もられる。

OSC出力はピーク10[mV]で十分で、1.0[V]あたりから歪む。
ワイド・ダイナミックレンジ動作には、OSC出力電圧を大きくしないのが良いことがわかった。

図1.1 ギルバートセル型乗算器によるミキサー回路の過渡解析+FFT解析

図1.2 ギルバートセル型乗算器によるミキサー回路の過渡解析+FFT解析2

2. BJTトランジスタ 簡易型ギルバートセル乗算器による高周波/RFミキサー回路
 (図2.1, 図2.2)

これは、トランジスタ技術誌(2015) AM送信機の乗算器を、ラジオ受信機用ミキサー用に回路変更したもの。

スプリアスが少ないとは言えない周波数変換が出来ている。
出力波形は、図1.1,図1.2の方式より、あまり良くない

波形形状は一般の市販ラジオのIFミキサー一段目と良く似ており、それらの性能並みと思われる。
図1.1,図1.2の方式が、より高性能と見積もられる。

図2.1. 簡易型ギルバートセル型乗算器によるミキサー回路の過渡解析+FFT解析1


図2.2. 簡易型ギルバートセル型乗算器によるミキサー回路の過渡解析+FFT解析2

3. 2SK241 x4 Quad Mixer 高周波/RF用

インターネット上の2SK125 x4 Quad Mixer ワイドダイナミックレンジ対応を参考にして、2SK241 X4 でミキサーを構成した。(図3.1, 図3.2)

周波数変換は起こるが、ゲインがかなり下がり、マイナスのゲインになった。
利得が下がる分、ダイナミックレンジは広くなるかもしれない。
スプリアスは、出力波形があまり綺麗には見えない。

利得を0dBまであげるように、ゲート電圧を調整したが、ここまでが限界近辺。
実用には利得上昇に課題が残った。

図3.1. FET Quad Mixer 2SK241x4 の過渡解析+FFT解析1

図3.2. FET Quad Mixer 2SK241x4 の過渡解析+FFT解析2

4. JFETによるギルバートセル乗算器を使った高周波/RFミキサー回路

利得0dBと、最大ダイナミックレンジを狙い2SK192でギルバートセル乗算器を使ったミキサー回路を構成した。

利得は、残念ながら0dBまで届かずマイナス利得。
波形はかなり乱れて見える。
周波数変換は起きている。

図4. 2SK192 x6 ギルバートセル型FET構成ミキサー

上記のものを比較すると、図1.1, 図1.2の方式を、OSC 10mV程度で動かすのが確実に動作し、そこそこの性能で実用的に思える。

課題:
Power BJT TRや、Power FETで、直線性の良いものがあれば、もっと高性能のダイナミックレンジが広く、スプリアスが少ないミキサー回路ができると思う。

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2017年2月15日水曜日

AMの過変調,包絡線検波方式,プロダクト検波方式の謎を解く

AMの過変調,包絡線検波方式、プロダクト検波方式について、国内に誤った認識と思しき情報が広がり「いいつつたえ」として定着、それ移行は理論修正が全くされないため、この状況を改善し、電子工学としての前進を試みます。

図1. は、変調率200%(変調指数=2.0)のAM変調電圧 です。

この計算式は、

Vam(t)={Vdc+x(t)}*Vc*sin(ωc*t) ...式(1)

に基づいています。

これまで、そして現在でも、こうした100%変調度を上回るAM変調波は、”過変調”と呼ばれ、送信波形が歪んでいると多くの書籍で語られ、その理解が定着してしまいました。

問題:

(1)AM変調波電圧は数学的計算式とグラフの示す通り、全く歪みはありません。(図1.参照)
 すなわち、送信波形は「過変調」にはなっておらず、変調波の歪みは全くありません。

(2)日本国内で言われているAM変調波の「包絡線」は、明らかに数学関数としての「包絡線」と異なったものです。
図1. 変調率200%(変調指数=2.0)のAM変調電圧


図2.1, 図2,.1 に図1.のAM変調波から取り出した数学的包絡線を示します。

なんら歪みは存在せず、ベースバンド信号である関数曲線は連続性を示し、変調は快調です。
この数学的包絡線を取り出せば、本来の正しい「包絡線検波」が可能です。

この数学的、真の意味の「包絡線」を検波する方式としては、既に「プロダクト検波」、または「同期検波」で実現できています。


図2.1 変調率200%(変調指数=2.0)のAM変調電圧の数学的包絡線 1(上側)

図2.2 変調率200%(変調指数=2.0)のAM変調電圧の数学的包絡線 2(下側)


従来の、日本国内の「包絡線検波方式」を図3.に示します。

図3. 日本国内の「包絡線検波方式」


僕にはいきさつは全くわかりませんが、日本国内の「包絡線検波方式」は、図3.に示すように、ダイオードが、最初の図1,の信号のプラスの電圧を通過させ、マイナス電圧をカットします。

これはおそらく、中学校技術家庭科で習う、商用100V交流の整流動作と同じ考えかたに由来すると推定されます。

この理論は、さらに、ダイオード検波回路後段のRC並列回路が、ピーク・アンド・ホールド動作を起こし、図3.の最大電圧を「ダイアゴナル歪み」を伴って、検波出力電圧になると説明されています。

しかし、ダイオードの高周波特性としては、このような整流動作は起こりません。

確かにシリコン・ダイオードは交流100Vやそれをトランスで分圧した、交流電圧、例えば先頭電圧12[V]を整流し、脈流と呼ばれる波形を出力し、ダイオードの後のコンデンサがそれを充電し、負荷が放電するために、脈流を伴った歪んだリップルと呼ばれる波形になることは、実験でも確認できます。

こうした単一周波数の交流の整流動作を、AM変調電圧の検波動作にそのまま適用することはできません。

倍電圧検波回路の倍電圧出力は、こうした整流動作の「勘違い」から発生した「いいつたえ」として定着してしまっていますが、それは正しくないことが、計算でも実測でも確認できます。

AM変調波電圧は、単一の周波数の交流電圧では構成されておらず、式(1)に従い、キャリア各周波数 ωc を中心に、帯状に無数の周波数による電圧源が加算させる回路で表現されます。

従って、従来の日本国内の「包絡線検波」理論は、ダイオード検波回路には適用できず、そのような電気的動作は再現できません。


付録:

AM変調の電圧式

Vam(t)={Vdc+x(t)}*Vc*sin(ωc*t) …式(1)

プロダクト検波の計算

Vout(t)=Vam*{2*sin(ωc*t+φ(t))} …式(2)
={Vdc+x(t)}*Vc*sin(ωc*t)*{2*sin(ωc*t+φ(t))}
=2*Vc*{Vdc+x(t)}*sin(ωc*t)*{sin(ωc*t+φ(t))}
=2*Vc*{Vdc+x(t)}*sin(ωc*t)*{sin(ωc*t)*cos(φ(t)+cos(ωc*t)*sin(φ(t))}
=2*Vc*{Vdc+x(t)}*{ {sin(ωc*t)}^2 *cos(φ(t)) +sin(ωc*t) *cos(ωc*t)*sin(φ(t))}
=2*Vc*{Vdc+x(t)}*{ (-1/2)*{cos(2*ωc*t) -cos(0)}*cos(φ(t))+(1/2)(sin(2*ωc*t)+sin(0))*sin(φ(t)) }
=Vc*{Vdc+x(t)}*{ (-1)*{cos(2*ωc*t) -cos(0)}*cos(φ(t))+(sin(2*ωc*t)+sin(0))*sin(φ(t)) }
=Vc*{Vdc+x(t)}*{ (-1)*{cos(2*ωc*t) -1}*cos(φ(t))+(sin(2*ωc*t)+0 )*sin(φ(t)) }
=Vc*{Vdc+x(t)}*{ (-1)*{cos(2*ωc*t)*cos(φ(t)) -cos(φ(t))})+sin(2*ωc*t)*sin(φ(t)) }

2*sin(ωc*t+φ(t)):局部発振器(Local OSC)の電圧式[V],φ(t):位相ずれ[rad/s]

LPF のカット周波数 ω cut[rad・Hz] < 2*ωc[rad・Hz] に設定すると
2*ωc[rad・Hz]の高い周波数成分が除去されるので、

LPF(Vout(t))= Vc*{Vdc+x(t)}*cos(φ(t)) … 式(3), プロダクト検波の出力電圧式
式(3)がプロダクト検波で復調されたベースバンド信号x(t)の式で、x(t)は、オリジナルのベースバンド信号x(t)について線形性を維持している。

ここで 位相ずれ 0≦φ(t) ≦2π で、-1≦cos(φ(t))≦+1 なので、
復調信号は、Vc*{Vdc+x(t)} が、時間的に-1~+1倍の幅で電圧値が変化する。
(具体的にはここで位相φ(t)は局部発振器の周波数ωcの位相が時間的にゆっくり変化する場合、その復調電圧 LPF(Vout(t))、瞬時的に最小0V 出力 0[V]となる出力変化を見せる。)

同期検波では、位相ずれφ(t)がキャンセルされるので、
cos(φ(t))=1 と制御するので、
LPF(Vout(t))= Vc*{Vdc+x(t)}… 式(4), 同期検波の出力電圧式

式(3),式(4)について、特殊化し、単一周波数の変調信号 x(t)=2.0*cos(2π*1000*t), Vdc =1.0 ,と設定すると
LPF(Vout(t))= Vc*{1.0+2.0*cos(2π*1000*t)}*cos(φ(t)) … 式(3)’
LPF(Vout(t))= Vc*{1.0+2.0*cos(2π*1000*t)}… 式(4)’

式(3)’, 式(4)’は、ベースバンド信号 x(t)=2.0*cos(2π*1000*t) に対し、線形関係を維持しているので、プロダクト検波、同期検波ともに、復調時の歪みは発生せず、ベースバンド信号を復調できる。
(これが本来の意味で、「数学的包絡線検波」動作となる。)

ここの特殊例では、
1.0+2.0*cos(2π*1000*t)
が「数学的包絡線」と一致する。

これは、振幅幅±2.0[V]はもちろん、理想アナログ乗算器を用いると、数学的に最大振幅±2.0[V]はいくら大きくなってもよく、それでも検波歪みは全く発生しないことを意味する。

(変調度100%以上の200パーセント,300,400%・・・となってもなんら歪み無く復調できる。)
(数学的には、変調度100%以上でも変調波電圧信号そのものに歪みがなく、かつプロダクト検波、同期検波は検波動作でも歪みが発生しないので、「過変調=歪む」の意味がもともとどのような電気的現象を意味していたのかわからなくなる、となる結果が数式から導かれる。)

AM変調/DSB変調/SSB変調電圧の可視化(見える化)

0〜100%〜200% 変調度のAM変調電圧波、DSB変調電圧波、SSB変調電圧波を、計算式とともに数値計算結果をグラフにしました。

ダイオード検波方式

日本国内では、検波用ダイオード(1N60が有名)に、RC並列回路を接続したダイオード検波回路が、「包絡線検波」と呼ばれる「定説」が現在まで引き継がれて語られ、現在でも、書籍やネットに書かれている。
この「定説」がいつ生まれ、どのように広がったてきたのか、そのいきさつは現在不明。

一方、ここでの解析結果では、こうした「包絡線検波回路」は、受信されたAM変調電圧波の包絡線と一致する説明記事は再現できなかった。
ここの解析では、AM電圧波のピーク・ホールドする動作が再現せず、またピーク電圧間を結ぶダイアゴナル歪みによる電圧も再現していない。

ここの検波動作解析結果では、受信されたAM変調波は、ダイオードの持つ周波数変換動作により、キャリア電圧と変調波電圧の周波数差分が現れ、それがベースバンド信号の低周波領域に現れていると推定している
(ダイオードによる周波数変換動作、ミキサー動作はすでに公知の事実。)

その復調波電圧は、グラフに書くと目には太い線に見え、その時間軸を大きく拡大すると、その太い線はキャリア波の細かい正弦波信号で構成されており、従来の「包絡線検波」とは全く別の概念/意味での2本の包絡線が存在し、微小な電位差の二つのベースバンド信号が包絡線となり、その包絡線に包まれるように、キャリア信号のなめらかな(ギザギザではない)正弦波の微小振動電圧の存在が見られる。
この微小電圧のキャリア波の振動は、ダイオードの後のRC回路が引きおこしている過渡現象かもしれない。
復調信号電圧のFFT解析では、キャリア周波数に一致する周波数にかなり高い信号レベルのピーク電圧が観測されるので、これは、先の二本の包絡線に包まれた微小電圧のキャリア正弦波の振動電圧の存在に対応すると推定している。(現在、解析中)

ダイオード検波の数学的計算の困難さ

変調電圧は複数の周波数の加算された複数交流を直列に加算したものになるが、
一方、コンデンサやダイオード,のインピーダンスは、周波数一定の高周波交流電圧に対し、1:1に対応して計算できるが、周波数の異なる交流電源が複数存在すると、それらのインピーダンスの計算方法が一意に定まらず、同時に異なる複数の周波数に対し、複数の異なるインピーダンスが同時に存在してしまう。この多重周波数の多重インピーダンスをどのように考えて計算する計算方法が課題。

産業上のメリット
無電源、無調整で実用になるAM検波回路が安価に容易に構成できる。
デメリット
指数関数特性に由来する高調波歪みの発生を防げない。

履歴:
Rev.0.1 : 2020/12/11  
AM変調/DSB変調/SSB変調電圧の可視化(見える化) 動画追加

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2017年2月13日月曜日

小信号・高周波/RF JFETアンプの設計法を探る(2SK241,2SK192対応) 暫定版

JFET 2SK241 または、2SK192の小信号高周波アンプの設計法を確立する。

N-MOS FETの設計法がJFETに通用しないことが判明したため、JFETを使った高周波小信号用JFETアンプの設計方法をオリジナルの手法で確立することを目指す。

1. DC特性の確認

電源電圧 Vcc を決定後、JFETのゲート電圧 Vgs : ドレイン電圧 Vds
の関係を求める。

負荷抵抗 RL をパラメータ指定して、それぞれの負荷抵抗での、
Vds : Vgs
Ids : Vgs
のグラフを求める。
図1. DC特性の確認

図1.から読み取れるJFETのDC特性

(1)JFETはある一定のゲート電圧をスレッショルド電圧 Vth として、ドレイン電流 Ids が流れ始め、ゲート電圧 Vgs が増えるほど Ids が増え、やがて飽和電流に達する。

(2)図1.のVds:Vgs曲線の傾きΔVds/ΔVgsが、JFETの電圧利得を意味する。

(3)負荷抵抗 RL が大きいほど、電圧利得は大きくなる。また入力可能なゲート電圧範囲は狭くなる。
 逆に、負荷抵抗が小さいほど、電圧利得は小さくなるが、入力可能なゲート電圧範囲は広くなる。

(4)小信号入力で高い利得を得るには、電圧カーブの変化率が大きいRLを選択すれば良い。
(例:緑線)

(5)大信号入力で低い利得で広いダイナミックレンジを得る場合は、電圧カーブの変化率が小さいRLを選択すれば良い。(例:赤線)

2. 選択した負荷抵抗 RL に関して Vds:Vgs のグラフを書く。

図2. Vds:Vgs DC特性

図2. のグラフの傾斜の中心点近く、Vgs=0.0[V]をバイアス電圧とする。

多くの応用回路で、2SK192,2SK241は、ゲート抵抗 1MΩとして、Vgs=0.0[V]をバイアス電圧にしていることが多いが、-1.8[V]〜0.0[V]のマイナスのバイアスで利得が得られるのがJFETの大きな特徴。
NチャネルMOS-FETでは、このDC scan カーブがプラス電圧範囲に現れる。


3. 周波数:利得 特性の確認

以上のDC特性が、AC,RFでも通用する保証は全く無いので、さらに高周波特性を見る。

使えそうなRL=200[Ohm], 300[Ohm]について、目的周波数 0.5[MHz]〜2[MHz]の利得を確認する。

図3.1 RL=200, Vcc=3V, Vth=0V での周波数:利得



図3.1 から、指定条件では利得=0と判断する。これでは電圧増幅は起こらないと判別する。

図3.1〜図3.3に示すAC利得は、入力信号電圧V1のバイアス電圧設定で大きく変化する。

このゲ−ト電圧のバイアス値が適切範囲(図1,図2.のカーブ内、スレッショルド電圧 Vth以上)に無いと、アンプは全く増幅せず、減衰動作になるので十分に注意要。


図3.2 RL=300, Vcc=3V, Vth=0V での周波数:利得
図3.2 RL=300, Vcc=3V, Vth=0V での周波数:利得 グラフから、2.3dB 電圧利得がとれると見込む。


図3.3 RL=可変, Vcc=12V, Vth=0V での周波数:利得


図3.3 RL=を可変し, Vcc=3V, Vth=0V での周波数:利得、周波数:電流 Ids、消費電力のグラフを書く。
図3.3は、Vds=12Vになっているが、利用するVcc電圧で、同じグラフを書く。

各負荷抵抗 RLでとれそうな利得の傾向を見る。
マイナスになる利得の線は増幅がおこらないので、目標とする利得を得られる負荷 RLの値を見つける

この利得特性グラフを書くには、V1に適当な、Vth以上のバイアス電圧を与えることが大変重要


消費電力が大きくなりすぎないように注意する。




図4.1  2SK241GR Vds : Vgs DC特性

図4.2 2SK241GR 利得:周波数特性



概ね17dB程度の利得がとれると見積もる。


5. 過渡解析

図5.1  2SK241GR 過渡解析 1

Vgs= -0.68[V] RL=1K[Ohm], Vcc=9[V]で、増幅が正常に起こっていると判断する。
Vgsがマイナス電圧 -0.68[V]で電流Idsが立ち上がる。
 
N-MOS FETと異なり、2SK241は、マイナス電圧 -0.68[V]がスレッショルド電圧である点に注意する。
N-MOS FETでは、通常プラス電圧がスレッショルド電圧として、二次曲線のVds-Vgs関数で近似できる


図5.2  2SK241GR 過渡解析 2


6. 応用回路にて過渡解析。(図6.1)

マイナス電源を使わないと仮定し、Vth=0V で妥協する。

図6.1  2SK192 AMラジオ用 RF増幅回路での過渡解析+FFT解析


図6.2  他の候補FET AMラジオ用 RF増幅回路での過渡解析+FFT解析

他に使えそうな小信号用FETと性能を比較し、より性能の良い回路にする。
2SK241が生産中止のため、2SK192で交替させる。

設計終わり
(ただし最適化は十分でない)

関連文書:
N-MOS FET , JFETの特性の調べ方、選択方法 ( LTspice 対応)

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2017年2月12日日曜日

VGA(利得可変アンプ) VGA6910-3 IFアンプのテスト

VGA(利得可変アンプ) VGA6910-3 を試したところ、3BIT制御で8段階の利得制御が可能であることが分かりました。(LTspice IV標準実装モジュールを利用)

0〜100KHz のIFアンプとして、マイコンを使わずにプッシュ・アップ、プッシュ・ダウンのボタン操作のような利得調整の応用に向いていると思います。(図1.)

図1. VGA6910-3 テスト

低周波領域電波受信、LF(長波)、VLF(超長波)受信等、一定の応用に使えるかもしれません。
もっと細かく利得を制御するのは、LTC6912をマイコンからI2Cで制御することがより良いものができそうです。

VGA+ADC+マイコン+ソフトウェアを組み合わせると、プログラムから思い通りの利得制御が自在にできるようになり、AGC制御の苦労から解放されると思います。
ダイナミック・レンジは100dBを超えるVGAもあるようです。

現在のところ、扱える周波数帯が100KHzくらいまでという課題がありますが、周波数変換を行うことで、この課題を克服あるいは改良可能と思います。
(もっと高い周波数対応の製品も既にあるようです。必要により検索願います。)

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2017年2月11日土曜日

SA612/NE602 14MHz受信機 プロダクト検波歪みとAGC制御の改良

前回記述したSA612/NE602 14MHz受信機では、プロダクト検波の出力AF信号が歪んでいた。
調査した結果、次の課題があることが判明した。

(1)参考にしていたネット上のAGC制御回路に設計上の課題が残っており、AGC電圧がうまく制御できていなかった。
(2)同じく、参考にしていたネット上のAGC利得測定回路に課題があり、C=10nF, PIN2-3間にインダクタを接続しているために、SA612/NE602内部の差動アンプが、差動入力動作できない電気的問題が発生していた。
(2)SA612/NE602のギルバート乗算器の利得が高いために、IC内部のギルバート乗算器のコレクタ電流が飽和していた。

対策:
(1)図1.1,1.2のようにAGC電圧がPIN-3から急激に下降しないように、電圧降下量を微小に制御する。
(2)入力側のC=10nF, L=10uHを除去し、SA612/NE602の差動入力回路が正常動作できるようにする。
(3)第一ミキサの局部発振器のピーク電圧を300mVから、10mVへ低減した。
 (利得を1/30にした。)

結果:
以上の対策の結果、上記課題は全て解決できた。(図1.2)
AGC利得は、10dBの制御幅に留まるが、入力AM信号(ピンクの波形)の歪みが消え、プロタクト検波回路の歪みが消え、AGC制御もできるようになった。

図1. プロダクト検波歪みとAGC制御の改良結果 改良後




図2. AGC測定回路 改良前

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2017年2月4日土曜日

LTspiceによるダイオード検波回路の等価回路計算とモデリング評価

既にLTspiceには、トランジスタやダイオードの最新理論による等価回路が実装され、精度の高い回路動作の計算が大変高い周波数VHF,UHFまでできているらしい。

身近な非線形素子として最も基礎的なダイオードの検波回路動作が、従来から久しく知られている指数関数によるダイオードの直流電流式 i(t)=Is*{exp(v(t)/Vt)-1}と、それを基礎にしたダイオードのDC等価回路で、どこまでLTspiceに近づけるのか試算してみた。

結果は、まだまだLTspiceの計算精度には届けないが、ある程度のダイオードの電気的特性についておおまかな定性的理解と、数値計算上の計算値近似が可能になる感触を得た。

最初に、一番良い計算結果となったダイオードのDC等価回路による計算結果と、BAT54ダイオードの計算結果を図1.で比較する。

(現在、高周波のダイオード等価回路モデルの資料が無いので、今回の計算アプローチはここまでに留まります。)

図1. ダイオードのDC等価回路モデルによるダイオード検波回路の動作

図1.に、DC等価回路モデルによるダイオードBAT54計算モデルと、LTspice実装のBAT計算モデルのAM検波電圧の過渡計算結果を示す。

青線:AM変調電圧 変調指数1.0, ベースバンド 1KHz 100mV ピーク電圧の入力信号
緑線:DC等価回路モデルによるダイオードBAT54計算モデルによるAM検波電圧出力 1KHz
赤線:LTspice実装のBAT計算モデルのAM検波電圧 1KHz

結果:
(1) 緑線、赤線ともにPeak Detector/Envelope Detector理論によるAM変調波電圧のピーク電圧(青線)をホールドする動作は再現していない。

(2) 緑線のDC等価回路計算モデルでも、LTspiceの計算結果に類似した波形と、電圧数値が出てきた。

緑線のDC等価回路は、理想ダイオードの計算式に基づく電流源へ、接合容量12PFのコンデンサを並列に接続し、かつ直列抵抗をかまし、かつ電圧Vtの値を、赤線に近づく様に一種の現物合わせ込みの調整をした。

図2. 小電圧入力 DC sweep計算結果

DC sweep計算は、高周波であるラジオ電波電圧に対しては、殆ど計算の意味をなさないが、試しに0〜100mVのDC電圧を入力し、理想ダイオードの計算式と、LTspiceのBAT54モデルの出力電圧を比較した。
(国内の書籍は、現在でもDC電圧でのみAM検波理論を論じている。すなわち100mV以下のDC電圧で、順方向電流が良く流れるか否かだけに気をとられ、肝心の中波放送/RF領域のゲイン・位相特性をとらえる考え方に気づいていない検討・製作・解説事例が多い。)

理想ダイオード電流値を見ると、指数関数の持つ曲線の特徴が見えるが、LTspiceのBAT54モデルでは、指数関数というよりも直線近似できるような計算結果となった。

DC sweep電圧を上げてゆくと、指数関数の計算値がぐんぐん上昇するので、両者の計算の誤差は大変大きくなるので、やはり理想ダイオード計算式ではDC特性であっても、近似計算は到底できない、という結果になった

表現が不適当になるが、基本的には、AM検波回路の計算に、理想ダイオード式を使うのは無理そうである。

図3. 理想ダイオードモデルとLTspice BAT54モデルの検波動作比較

FFT結果を見ると、理想ダイオードの指数関数から予測される周波数変換特性は、LTspiceのBAT54計算値と類似した特性が見られる。
しかし、ダイオードに流れる電流値を比較すると、理想ダイオードでは計算式通りに、マイナス側の電流がカットされてしまい、ダイオードの高周波特性である貫通動作が見られず、結果、検波電圧値も大きく外れてしまう。

どちらにしても、AM検波モデルの両者とも、従来のPeak Detector/Envelope Detector理論によるAM変調波電圧のピーク電圧をホールドする動作は再現できない。

両者とも計算値は、AM変調電圧ピーク値をホールドしておらず、どちらにしても実際のダイオード検波回路は、従来検波理論に従っていない、それとは異なる動作をしている。


図4. 過渡解析とFFT計算結果 周波数レンジ最大幅

図5. 過渡解析とFFT計算結果 周波数レンジ キャリア周波数近傍

図4, 図5に周波数変換動作がどうなっているか、理想ダイオードモデルと、LTspice BAT54モデルを比較した。
検波動作の基本原理として僕がこれまで書いてきた周波数変換特性により、ダイオードの低周波検波電圧が出るという考えは、定性的な特徴は再現した。

LTspiceの計算結果と実測データをオシロスコープで観測で比較すると、この課題は、よりはっきりすると思います。

(現在、震災の影響で僕の実験室が使えない状態のため、お読みになられた方は、ぜひ、オシロスコープで検波回路の出力波形を見て欲しく、よろしくお願いします。)



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Revision
-0.1-(Jun.27,2017)
図1.の出力信号電圧の変化は、次の講座で説明されている f(t)=cos(t)+C, g(t)=exp(αt)
の畳み込み積分の結果 f*g の波形にとても良くにています。

 Exploration of the Convolution Accumulation Applet

(Copyright by MIT/US and Mr.Youtube)

三角関数電圧にDC電圧を加えた関数を、重み関数が指数関数で減衰する特性にも見えます。
RC並列回路が、重み関数 g(t)=exp(-αt) 、その入力 f(t)=cos(t)+C がダイオードによる周波数変換後の低周波信号電圧に対応できそうに思える。

すなわち、
f(t)=cos(ωs*t)+Vdc
g(t)=exp((-1/RC)*t)
の畳み込み積分で、ダイオード検波回路の出力電圧が求まるのではないかと思う。
{どなかたかチャレンジ願います。おそらくまだ誰もできていないと思います。}
(July.21, 2017)

Sep.22,2017 :図4(ダイオードの周波数変換効果特性を見る図)画像ファイル挿入ミスを差し替え

Jan.23, 2018 :一部分、文章遂行



AMベース変調回路 実現可能性の再検討結果

AMベース変調回路は現在でも大変著名な回路方式で、現在もインターネットの辞書にも出ています。

以前、終段コレクタ式AM変調がうまくできない設計ミスが続いている国内の現状について、その現象、原因、根本対策法を示しました。

一方、僕は生徒時代、この終段コレクタ変調がうまくできない現象を回避するため、ベース変調回路も試作しました。

その結果は前回書いたようにNGで、AM変調はうまくかかりませんでした。
それが数学的計算では理論的に無理であることは、前回の記事の下に追記してあります。
https://ji1nzl-official.blogspot.jp/2015/09/am_19.html

ここでは試しにベース電流を定電流制御すると、BJTトランジスタのIc-Vceが直線リニアアンプ特性になることに着目し、トランジスタでも真空管のようなアナログ乗算器の特性がだせるかどうか見てみました。


図1.1  改造ベース変調回路(新方式)


図1.2  改造ベース変調回路 FFT解析

ここでの方式は、ベース側にAF信号を入力、コレクタ側にRF信号を入力、BJTトランジスタに、アナログ乗算動作が起こることを期待しました

しかし、残念ながら、真空管のようなアナログ乗算特性は出せていません
変調は浅く、かつ電波は歪んでいます。

この回路の実用の見込みは、今のところない感じです。

素直にギルバートセル乗算器の利用が設計法として確実と思います。


ここで、それでも何故、浅いながらもAM変調が弱く歪んでかかるのか・・・? 
おそらくBJTトランジスタのベース〜コレクタ間のPN接合部で、ダイオードのRF/AC特性である周波数変換動作が起きているのではないか・・・と推定しています。



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サイン波発振器のクロック信号波形変換回路の設計

・・・ということで、振幅電圧の変化するサイン波VFO発振器を、一定振幅のマイコン制御と親和性の高いクロック波形に変換する回路を考えます。


図1. サイン波からクロック波形変換の基礎回路 

図1.は、別記事に書いたOPアンプを使ったコンパレータ動作の遅延回路を設計変更して、サイン波の中央電圧を基準電圧でクロック波形電圧TTLレベルを得る回路を考えたものです。
5V単電源で動けるメリットもあります。

課題としては、LT1017は周波数の低い範囲でしか、この波形変換ができないので、周波数が2MHzくらいまでは動けるLT1358/LT1359に交替してみます。


図2. LT1358/1359を使ったサイン波〜クロック波変換回路

図2.のように出力波形が、TTLレベルのクロック電圧にはならない課題が発生しました。
この課題を解決するため、波形整形に、HCMOS 74HC04 低消費電力NOTゲートを使うことにします。


図3. サイン波〜クロック波形整形機能付き回路

こうして考えた回路が、図3.のサイン波〜クロック波形整形機能付き波形変換回路です。
位相が反転した(180度位相シフト)電圧の2相のTTL用電圧がうまく生成されています。
これならLT1799互換回路ができそうです。


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従来式スーパヘテロダインラジオ用局部発振器の広帯域発振 性能限界の評価

従来式スーパーヘテロダイン・ラジオの局部発振器は、中波帯域 550KHz〜1600KHz 実に1MHz以上、かつスプリアスの大変少ない綺麗なサイン波(正弦波)が生成します。

トランジスタ式スーパーヘテロダインラジオ用局部発振器用コイル(赤色)は、現在でも市販されていますが、そのコイル特性は神業とも言うべき、洗練された最適化がなされていることがわかってきました。

図1.は、KM-88という現在も市販されているラジオキットの局部発振器をオリジナルに最適化設計しなおしたものです。

図1. ラジオ用局部発振器の発振周波数範囲の限界

発振が開始され、振幅の安定するには電源ONから若干の時間を要し、振幅が一定になるには何らかの規則性が見られます。

図1. では、最も高い周波数(緑色)が早く発振を開始し、振幅幅も大きい結果になりました。
灰色の線が、最も周波数が低く、バリコン容量が最大になる近辺の限界周波数です。

周波数が低いほど、発振開始に時間がかかり、振幅が小さくなり、限界周波数より低くなると発振が起こらないことがわかりました。

欧米では、フルビッツさんらが、こうした発振理論を構築され、フルビッツの多項式で発振条件を数学で計算できるようにだいぶ以前に理論構築に成功されたようです。

しかし一方で、世界で最初にトランジスタラジオを市販されたのは、国内の家電メーカのようです。こうした真空管やトランジスタ動作が理論的にほとんど解明されていない時代には、おそらく試行錯誤法で、真空管回路からトランジスタ回路への移行が行われたかもしれず、それに要したコイルの巻き直しや試作の失敗の繰り返しという神業のような超人的努力があったのではないか?・・・と、想像されます。

これが現在では、パソコン上で、こうした回路計算ができるようになってはいます。
しかし、こうした回路設計法が十分に確立されているかというと、そうではない、と僕は思います。
多くの電子回路の設計法は現在でも存在しないものが大変多い(何故動くのか本当は良くわかっていない。学問として、電子回路設計法が個別回路でも確立されておらず、また全体システム設計として体系化もされていない。)と、僕は思っています。


図2. 発振波形

図2.のように大変綺麗なサイン波で、スプリアスが極めて少ない美しいものです。
どうやってコイルの巻き数やタップ位置を決めたのか・・・?
これは神業ではないでしょうか。

通信機のVFOはアナログ回路では、1MHz帯域を得るのは難しく、周波数が低いほど、発振周波数帯域は狭くなる傾向があるように個人的には経験しています。

こうした中波帯と周波数が低く、かつ1MHzを超える帯域幅で、ここまで純粋なサイン波が得られているのは超人的神業と思います。


図3. 発振周波数で振幅幅が変化する特性

図3.に、この局部発振器の最高周波数限界、最低周波数限界の振幅幅を比較しました。

ラジオのシステム性能上は、周波数が変化しても振幅幅が一定になることが望ましく、周波数混合器を理想アナログ乗算器と考えると、ラジオの感度は計算上、振幅電圧幅に線形比例して、出力される受信電圧は高くなります。
(記事「ラジオはどうして聞こえるの?」を参照)

この振幅の変化するサイン波を、振幅一定のクロック波に変換できれば、市販のOSCコイル、バーアンテナ、二連バリコンをそのまま無改造で流用した、機械同期による同調操作が可能になります。
別の記事で、この波形変換を考察します。


このVFOの課題:
(1)発振周波数が時間的に少しずつ変動する。
(2)#(2)の周波数変動は発振周波数が高いほど安定度を保つのが難しくなる。
(3)発振周波数が温度変化、一日の温度変化、季節的温度変化で変動する。

現在までに上記課題を解決する手段としてPLL,DDSが当たり前のように使われるようになりましたが、近年になり、再びこうした旧式回路を持つ海外製品が輸入される傾向があるようです。


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シンプルなリング変調回路によるAM変調/DSB(SSB)変調回路と奇妙な回路特性

リング変調回路を、LC共振回路無しで構成すると、電圧のプラスの象限と、マイナスの象限領域が半分になったような、見たことのない奇妙なAM変調波またはDSB変調波を生成することがわかった。(図1.1, 図1.2)


図1.1 ダイオードのみによるリング変調回路の奇妙な動作 FFT周波数広帯域

FFT解析で、キャリア中心周波数近傍のスペクトルを見ると、このような半月上の波形形状でもAM波、またはDSB波を形成していることが分かった。(図1.2)


図1.2 ダイオードのみによるリング変調回路の奇妙な動作+FFT周波数狭帯域


図1.3 ダイオードのみによるリング変調回路の奇妙なAM変調波形+FFT周波数狭帯域

この奇妙なAM変調波は、下側のマイナスの象限が無いが、周波数スペクトルを見ると、キャリア信号とUSB、LSBの側波帯が見られる。(図1.3)


図2.1  既存の通信機用リング変調回路とDSB変調波形 過渡解析

従来より通信機に使用されているDSB変調器の過渡解析結果を図2.1に示す。
綺麗なDSB変調波(緑色)が見える。
この回路の後に水晶フィルタを使いLSB側またはUSB側の帯域を取り出すSSB通信機の送信回路がかつて多用されていた。


図2.2  既存の通信機用リング変調回路とDSB変調波形 AC解析

従来式リング変調式DSB変調器のAC特性は、キャリア抑圧特性が同周波数上で極大になり、キャリアがキャンセルされるため、利得はこのように大変小さくなる。(図2.2)


図2.2  既存の通信機用リング変調回路とDSB変調波のFFT広帯域特性

このようにリング変調回路によるDSB変調または、AM変調波には、大変広帯域のスプリアス信号が発生する。(図2.2)
このため、変調器の直後の電波の質は大変悪く、特性の良い水晶フィルタ等の狭帯域バンドパスフィルタを使ってはじめて実用になる


図2.3  既存の通信機用リング変調回路とDSB変調波のFFT狭帯域特性

このように周波数軸を狭帯域で見ると、LSB信号、USB信号が見え、キャリア信号はキャンセルされ見えない。
キャリア信号を出すには、AF信号源にDC電圧を与える。するとAM変調波が発生する。

ここでDC電圧をAF信号源に与えてもリング変調器の平衡は崩れていない

国内では、「DC電圧をAF信号源に与えると、リング変調器の平衡が崩れて、キャリア信号が漏れる」という「言い伝え」があるが、それは何かの勘違いが伝わっているもので、リング変調器の平衡は何も崩れてはいない。

リング変調器による周波数変換器は、1997年ノキア社の数値演算式変復調器の特許にも使用され、また現在の携帯電話用ミキサーにはそうした高い周波数用のダイオードDBMが並列に構成し利得減衰を少なくした部品が現役である。必ずしもclassicなものではない。

このリング変調回路は、周囲の回路との電気的結合が小さくなるので、回路全体の異常発振がおこりにくくなる優れた特性がある。

例えば、現在も使用されている従来式スーパーヘテロダイン・ラジオは回路間の結合が強く、異常発振を起こしやすい技術的課題をもった状態で製造が続いているが、ミキサー回路にこのリング変調器を使うことで、異常発振はいとも簡単に止まる。(実験で検証済)