KM-88 スーパーヘテロダインラジオの動作方式
概要 KM-88は、RF MixerをTR1, 局部発振器をTR2でそれらの回路を独立に分離しているのを特徴とするスーパーヘテロダイン式ラジオである。
(一般家庭用、趣味のキット用として、安価な従来式スーパーヘテロダインラジオは、次の2タイプがある。
A. 一石のトランジスタでミキサーと局部発振器を同時動作させるタイプ
B. 二石のトランジスタで、ミキサー回路と、局部発振器を分離したタイプ
A. 一石のトランジスタでミキサーと局部発振器を同時動作させるタイプ
B. 二石のトランジスタで、ミキサー回路と、局部発振器を分離したタイプ
KM-88は後者Bのタイプで、ミキサー回路と、局部発振器回路が独立しているので、それぞれの回路のトランジスタに独立したバイアス電圧を与えることができ、それぞれの回路動作条件を若干だけ設計しやすく、動作も安定する設計意図による構成になっている。)
図1. KM-88 オリジナル回路と改良設計の概略
2. 回路構成と動作方式
(1) TR1は、ベース端子から L+VC1 同調回路で選択した放送局高周波AM電波を入力、局部発振器(TR2によるOSC)のサイン波電圧をエミッタ端子からC2経由で入力、両者のRF信号をアナログ乗算して周波数変換動作させ、455KHz帯の中間周波数帯を、IFT-1に出力する。
(2) TR2は、局部発振器(OSC)を構成。発振周波数はOSCコイルとVC2の同調回路より定まる。
(3) TR3,TR4は、IFT 455KHz帯の中間周波増幅帯高周波アンプを構成し、ここで高い受信感度利得を得る。 TR3のベースにはC11、R8で時定数の定まるAGC電圧がかかるAGC(自動利得制御)がかかる。TR4のベースは固定バイアス電圧により固定利得で動作する。
(4) D1のダイオード、R10,VR,C8,C9は、AM変調波を検波するダイオード検波回路を構成する。また、ダイオードから出力されるマイナスDC電圧をAGC電圧としてIF初段のTR3にフィードバックする。
(5) TR5,TR6はトランジスタ2段の小信号低周波増幅アンプを構成する。
(6) TR7、TR8は、プッシュプルによる電力増幅アンンプでスピーカSPを鳴らす。
3. 課題
(1)TR1がミキサー回路として周波数変換動作を行うためには、アナログ乗算器としてバイアス動作点を設定する必要がある。しかし、この一石アナログ乗算回路は、ギルバートセル型アナログ乗算のような優れたアナログ乗算特性が出せない電気的特性上の課題をかかえたまま、現在でも課題が解決されていない。
TR1の負荷が、iFT同調回路で、インピーダンスを下げてコレクタに接続されてはいるが、負荷インビーダンスが虚数成分(リアクタンス成分)を持つために、良好なアナログ乗算器特性を出せない原因になっている
TR1の負荷インピーダンスは、理想的には純抵抗成分であるのがアナログ乗算動作に必要な基本条件と考えられる。
(2)TR1のOSCとの結合抵抗C2 = 0.005uFが大きすぎる。このため、OSCの発振が不安定または停止し、ラジオが全く聞こえない現象を起こす原因になっている。
(3)OSC回路のC3は不要。
(4)回路構成上、TR1のミキサー回路と、OSC TR2の電気的結合が強すぎる。このため、両者の回路をそれぞれどちらも安定動作させる条件の同時成立が難しくなっている。
(どちらかの回路動作に不安定動作が現れると、他方に悪影響が及ぶ。)
(どちらかの回路動作に不安定動作が現れると、他方に悪影響が及ぶ。)
(5)OSCが安定に発振するためには、TR2のバイアス電圧ポイント設定が適切である必要がある。しかし、このバイアス電圧ポイント設定が適正でないと、全く発振しないか、異常発振の原因になっている。
(6)OSC TR2コレクタ側に接続されるOSCトランスの2次側コイルから、Vccパタンを経由して、強い発振波RF電圧が漏れる。このため、これをバイパスする高周波特性の良いパスコンが必要だが、回路上に明確にはない。
(C12は電解コンデンサ(アルミ電界コン)なので良好な高周波バイパス特性が期待できない。)
このため、Vccと交流的にショート状態にあるGNDラインー>C1ー>TR1ベースへOSC発振電圧が流れ込みやすく、TR1が異常発振する原因になっている。
(7) iFT1, iFT2, iFT3はそれらは、一次側、ニ次側が密結合になっているので、iF増幅回路の総合利得が高いため、自己発振しやすい構造になっている。
(8) iFT1, iFT2, iFT3はそれらは一次側の中間タップから電源電圧をとっているが、このコイル構造は、LC同調回路の同調周波数が大きくずれやすい特性があるため、iFTのそれぞれが455KHzから同調周波数が大きく離れて同調しやすくなっている。
為に、iF増幅回路の利得がほとんどなく無くなり、ラジオ放送が何も聞こえない現象を起こす原因になりやすい。
(9) (8)とは逆に、TR1, TR2 のIF増幅器は、iFTが同調すると利得が高くなるので、構造的に自己発振が起こりやすいリスクも同時に持っている。
(10) TR4のバイアス抵抗は、TR4の利得に大きく影響する。このバイアス電圧が適切でないと、十分な感度・利得が得られないか、逆に利得過剰で、異常発振を起こしやすい特性がある。
(11)ダイオードは、ゲルマニウム・ダイオードが好んで使用されるが、ダイオード検波回路の動作について従来検波理論に誤りがある。この検波回路動作は、高周波特性モデルで計算解析されるべきであるが、これが必ずしも良く知られておらず、微小電圧でのDC特性と、低い周波数での整流とピークホールドという誤った包絡線検波理論で説明されていることが多い。
ダイオードはAM検波を実際に実用的に検波動作をしてはいるが、それは被変調波成分LSB,USB信号と、キャリア周波数の差分の低周波信号の周波数変換動作によるものである。
この検波特性は、ダイオー電流の指数関数特性に由来するので、3次、4次以上の高調波歪みが発生するのを避けられない課題がある。
(ピークを補完するダイアゴナル歪みが発生するという従来理論は誤りと考えられる。)
(12)ダイオードの出力には、高い信号レベルの455KHz帯域周波数が出力され、これをC8でグランドに落とし、R10+C9によるLPFで減衰させている。しかし、その減衰量が不十分で、小信号AFアンプに漏れ出し、増幅されてしまう結果を招く。
TR5は、このIF信号を増幅から防ぐ手段が回路上にない。
T1一次側コイル+C10のLC共振回路により、この検波回路出力から漏れたIF信号増幅を抑える回路が見られるが、TR5,TR6によるIF信号増幅動作を抑えることが十分にできていない。
(13) R17は、動的に変化している電流に比例して電圧降下が起こるので、TR1,2,3,4,5,6にその変動したDC電圧が加わる課題がある。
(14) TR5以降のトランスを用いたAFアンプは周波数特性が悪いので、良好な音質を得られない。
(15) 6V電池の利用が想定されているが、現在のポータブルラジオは3V動作が主流であるが、全体の回路構成が3V等の低電圧電源動作に向いていない設計になっている。
3. 対策(改良設計)
3.1 局部発振器の安定化対策
局部発振器を単独で発振安定に改良設計する。
図3.1 局部発振器の安定化対策の過渡解析結果
3.2 ラジオ受信部の改良設計
AF増幅部を除くラジオ受信部の改良設計を行う。
3.2 AF増幅部を除くラジオ受信部の過渡解析結果
参考資料:
後述とする。
Revision: 初版 2016/11/20
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