FM復調方式として知られるレシオ検波回路は、モトローラ社のMC3357(クアドラチュラ検波方式)が主流になる前の時代、おそらく1970年後期か1980年前期くらい(?)まで、FMラジオ、ラジカセ、FM通信機に盛んに使われていたと思われます。詳細の歴史やいきさつを僕は知りませんが、従来までレシオ検波回路の持つF/V変換特性の持つFM復調の原理説明が多くの書籍[3]等や現在のネット上の教育記事で長い間うまくいっていない現状が分かったため、この記事では、レシオ検波回路の持つF/V変換特性を、LTspiceで解析し、そのFM復調原理の本質をわかりやすく理解できるように、その動作の解明を行いました。
図1. FM復調用レシオ検波回路のF/V変換特性 No.1
図1. は、 FM復調用レシオ検波回路が、周波数を電圧へ変換するF/V変換特性を、広めの周波数9.6[MHz]〜11.2[MHz]でAC解析したものです。
ここのレシオ検波回路はFM変調波の中心周波数10.7[MHz]近傍では、直線的な電圧変化と直線的位相の変化が見られます。
FM変調波の変調波帯域を離れるとLC同調中心周波数の同調特性により、S字カーブになり約9.9[MHz]に出力電圧の極小値と、約11.0[MHz]に出力電圧の極大値が現れ、これらの曲線となる領域では、F/V変換特性は直線性を失うものの、中心周波数10.7MHz近傍では、かなり良好な近似的直線動作が見られ、FM復調に適した特性が見られました。
図2. FM復調用レシオ検波回路のF/V変換特性 No.2
図2.は、図1.の横軸 周波数軸を10.40[MHz]〜11.0[MHz]に制限し、同じF/V変換特性を描いたものです。中心周波数10.7[MHz]近傍では、かなり良好な近似的直線動作が見られ、FM復調に適した特性が見られました。
このspiceが計算したグラフから、F/V特性と、F/Phase特性を直線の式で表現できます。
このシミュレーションでは最適化がどこまでできるか現在不明ですが、
一種の実験式として、
V(f)=A*(f-F0)+B ...(1)
ここで f は入力周波数[Hz]
A, Bは定数 ,
F0=10.7[MHz] (F0:中心周波数)
P(f)=C*(f-F0)+D ...(2)
ここで C, Dは定数
を得ることができます。
式(1)がF-V変換(周波数:電圧)の一次近似式、式(2)がF-P変換(周波数:位相)の一次近似式です。
理論式は文献[2]にあります。(文献[2]の計算信頼性は未確認です。)
このテストでは、周波数変調は±150[KHz]の周波数変化には、十分な直線的電圧値が求まりました。
位相変化 P(f)は、0≦ P(f)<2π[rad]の位相一回転分の出力は得られていません。
図3. FM復調用レシオ検波回路の過渡解析結果 No.1
図3.は、ベースバンド信号(変調用の入力音声信号) 1[KHz] 尖頭電圧5[V]の微小電力FM送信機からFM変調電圧信号を出力し、抵抗100[Ohm]を介して、レシオ検波回路に入力し、入力となるFM変調波信号 V(baseband)と、出力されたFM復調信号V(rx-out)信号の時間的電圧変化(過渡解析結果)と、それらの周波数分布をFFT解析で描いたものです。
ベースバンド信号 V(baseband)は1KHzの正弦波(左下のグラフの赤い色の線)とFM変調送信機のFM変調波形V(tx-out)の左下のグラフの青い色の線)が、レシオ検波回路に入力され、出力信号V(rx-out: 緑線)が制限波 1[KHz]で復調され、出力されています。
図3. 下側はFFTによる周波数分布スペクトラムを描いたものです。
V(tx-out)) 赤色の線は、遅い赤色のピークが10.7[MHz]に見えます。
図3. V(rx-out)は、青い色の線で、FM復調された1[KHz]信号のピークが見られます。
図3. V(baseband)は、青色の線で、FM変調送信機の入力となる音声信号で同じく1[KHz]のピークが見られます。
V(baseband)とV(rx-out)信号は、レシオ検波回路通過により、オリジナルのベースバンド信号のS/N劣化があることが分かります。
しかしながら、復調されたV(rx-out)信号のノイズフロアは -30db 〜 -60dBにもなっており、大変S/N比の良い雑音がほとんど聞こえないFM復調ができていることが分かりました。
図4. FM復調用レシオ検波回路の過渡解析結果 No.2
図4.は、図3.のFFT結果について、ベースバンド信号(緑)と、出力されたFM復調信号(青)のグラフを拡大表示したものです。
図5. FM変調波の周波数スペクトラム
図5.は、FM送信機のFM変調電波 V(tx-out)を青色で、周波数スペクトル表示したものです。
期待値通りに、10.7[MHz]を中心にして±75KHzの周波数帯域で、ほぼ平坦な振幅一定のFM電波が送信されています。
実機動作確認:
このレシオ検波は、僕が学生時代に製作し、144-146[MHz]帯をダウンコンバージョンした受信機で、音声が期待した音量、音質で再現できています。
References:
[1] このレシオ検波回路は、僕が昨年2015冬に暫定設計したものを、LTspice Group/ Yahoo.comのモデレータのHelmutさんに再設計していただいたものをベースにています。
[3]トランジスタ技術 2016年1月号 「情熱のFMラジオの製作」
[4]本ブログ上のFM変調関連記事
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