2016年6月28日火曜日

IQ変調器(直交変調器)を使ったPSN法によるSSB信号の生成方式 (日本語版)

IQ変調器(直交変調器)を使ったPSN法によるSSB信号の生成方式 (日本語版)


概要


現在は、PSN方式がDSP信号処理で実現されている。
PSN方式の動作説明は、これまで長い間、回路信号の図と難解な長い文章で表現されてきた。
このため、その動作原理の理解が難しく、曖昧であった。


ここでは、PSN方式が、IQ変調器を使って構成できることを図解し、SSB(USB/LSB)が生成される動作原理を、数式で表現する方法を用いる。
そうすることで、原理説明の曖昧さを無くし、シンプルでやさしく理解できるようにした。


また数式で変調方式を表現することで、SDR(ソフトウェアラジオ・無線)のソフトウェア実現方式(数値演算変調方式)を明確にした。


1. 構成


IQ直交変調器を使用したPSN変調器を図1に示す。

図1 IQ直交変調器を使用したPSN変調器

以下、図1中の構成要素について説明する。


ベースバンド信号電圧入力源 V1(例:マイクロフォンをアンプで電圧増幅した電圧信号源)
(2) -90度位相シフト回路1: 信号V1の位相を-90度シフトする回路
(3) 局部発振器 Vosc : キャリア周波数 fc[Hz]の発振電圧を発生する回路
(4) -90度位相シフト回路2: 局部発振器電圧 Voscの位相を-90度シフトする回路
(5) 乗算器1: (1)の電圧V1と、(4)の-90度位相シフト電圧信号を入力し、乗算し、V4へ出力
 ie. V4 := V1*V3
(6) 乗算器2: (2)の-90度位相シフトした電圧V2と、(3)の局部発振器Voscを乗算し、V5へ出力
(7) 加算器または減算器:乗算器1の出力電圧V4と、乗算器2の出力電圧を加算または減算し、Voutへ出力
 ie. Vout := V5 + V4  (USB生成時)
   または
     Vout := V5 - V4 (LSB生成時)


以上の要素で構成する。
このうち、IQ直交変調器は、(3)(4)(5)(6)(7)の各要素を接続して構成する。
PSN方式SSB変調器は、この直交変調器(3)(4)(5)(6)に、(1)(2)の構成で生成するI信号、Q信号生成器を接続したものとなる。


2. 処理方式


2.1 要素別の処理説明


(a)局部発振器Voscを発振させ、出力電圧を乗算器2と、-90度位相シフト回路2の入力とする。
(b)-90度位相シフト回路2により、Vosc信号の位相を-90度シフトし、乗算器1の入力とする。
(c)ベースバンド信号電圧入力源 V1を入力し、乗算器1の入力とし、かつ、-90度位相シフト回路1の入力とする。
(d)乗算器1は、 V4 := V1*V3    を実行する。
(e)乗算器2は、 V5 := V2*Vosc を実行する。
(f)加算器は、 Vout := V5 +V4 を実行する。または、減算器は、 Vout := V5-V4 を実行する。


(a)~(f)を並列処理すれば、SSB信号(USBまたはLSB)が、Voutに生成される。


2.2 計算式による説明


The principle to generate SSB modulated signal by using IQ modulator (PSN method)


Assume V1 is “baseband signal” to be input as audio signal.
(eg. we can use microphone to input V1.)
V1 = Vs*sin(ωs*t) …(1)
 here ωs = 2πfs  …(2)
         fs [Hz] is 0 to 20KHz Frequency of baseband signal on Audio frequency


Shift V1 signal to be -90 deg. by “-90 deg. Shifter”.
V2 = Vs*sin(ωs*t-π/2) = -Vs*cos(ωs*t) …(3)


OSC generates ωc[rad*Hz] sin wave voltage.
Vosc = Vr*sin(ωc*t) …(4)
here ωc = 2πfc …(5)
         fc [Hz] is set to RF frequency such as 9MHz so called “Carrier frequency”.


Shift Vosc signal (4) to be -90 deg. by “-90 deg. Shifter” and get V3.
V3 = Vr*sin(ωc*t-π/2) = -Vr*cos(ωc*t) …(6)


Get V4 by multiplying V1 and V3.
V4= V1*V3 = Vs*sin(ωs*t) * (-Vr*cos(ωc*t)) = -Vs*Vr*sin(ωs*t) * cos(ωc*t) …(7)


Get V5 by multiplying V2 and Vosc.
V5 = V2*Vosc = -Vs*cos(ωs*t) * Vr*sin(ωc*t) = -Vs*Vr*cos(ωs*t) *sin(ωc*t) …(8)


When “Adder” used before Vout,
Vout = V4+V5 = -Vs*Vr*sin(ωs*t) * cos(ωc*t) -Vs*Vr*cos(ωs*t) *sin(ωc*t)
       = -Vs*Vr* (sin(ωs*t) * cos(ωc*t)+cos(ωs*t) *sin(ωc*t))
       = -Vs*Vr* (sin(ωs*t+ωc*t) ) = -Vs*Vr*sin((ωs+ωc)*t)  …(9)
       … This (9) means USB generated as output signal Vout.
           (9) is USB signal and Carrier ωc signal voltage is removed here.


When “Subtracter” used before Vout,
Vout = V5-V4 = -Vs*Vr*sin(ωs*t) * cos(ωc*t) + Vs*Vr*cos(ωs*t) *sin(ωc*t)
       = -Vs*Vr* (sin(ωs*t) * cos(ωc*t) - cos(ωs*t) *sin(ωc*t))
       = -Vs*Vr* (sin(ωc*t-ωs*t ) = -Vs*Vr* sin((ωc-ωs)*t)  …(10)
       … This (10) means LSB generated as output signal Vout.
         (10) is LSB signal and Carrier ωc signal voltage is removed here.


“PSN method” by using “IQ modulator” is proved to generate SSB modulated signal
( USB or LSB).


(C) Noboru, Ji1NZL, Jun.21, 2016


付録


A. SSB変調信号とは


中波ラジオ、短波ラジオ、航空無線では、AM変調(振幅変調)による電波が、音声通信・ラジオ放送に使用されている。
AM信号は、キャリア周波数を中心にして、LSB帯域の変調信号、USB帯域の変調信号で構成されている。
SSB信号は、AM信号から、キャリア信号と、USB帯域またはLSB帯域のどちらかの変調信号のみを利用する。
SSB信号は、送信機ではAM信号中の、キャリア信号と片側のUSBまたはLSB帯域信号を増幅すれば良いので、変調波信号の送信回路で消費される送信機の消費電流を大幅に省電力化できる。
また、受信時は、SSB信号は、受信信号が微弱でも、非常に良好な了解度が得られるメリットもある。
こうしたSSB変調信号は、省電力で遠距離通信に向いているので広く普及している。

B. SSB変調回路開発の歴史


従来技術として次のものがある。


(1)リング変調回路+水晶フィルタによるSSB変調方式 : 
送受信機回路は、リング変調回路のDSB信号出力を、3KHz帯域ほどの水晶フィルタでDSB信号の必要なUSB帯域成分または、LSB帯域成分を通過させ、余分なUSB帯域、LSB帯域を除去し、そのSSB信号をリニア増幅して送信する方式。
1970年~1990年に普及。
製品例: TS-520X/D, TS-820X/D, TS-830X/D


(2) アナログPSN方式:
アナログ回路構成によるPSN(Phase Shift Network)方式が知られていたが、90度位相シフト回路の電気的特性で、利用周波数帯域内で利得が変化してしまう等の課題があり、あまり普及しなかった。


(3) デジタル数値演算変調方式:

現在主流の方式。無線機に実装されているSSB変調は、数値演算変調方式という言葉で表現されたDSP信号プログラム処理により、変調・復調ができる。

(4)携帯電話のノキア社が、1997年にIQ変調器・復調器の特許を出願していることが分かった。
I/Q modulator and demodulator EP 0546719 B1
実施例では、乗算器にダイオード・リング変調器/復調器を使用しており、最新型ではないが、複素数信号処理の概念が明らかになった世界初または初期の発明かもしれない。


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