2015年12月9日水曜日

複素数電圧平面上の交流電圧の時間関数の動き「交流の正体」をつかむ

複素数電圧平面上の交流電圧の時間関数の動き「交流の正体をつかむ」

複素ベクトル表現による電圧の時間関数 V(t)は、次の式(1)で表現できることが知られている。

v(t)=V0*exp(j*ω*t) [V] ・・・式(1)
{ここで ω=2*π*f (ωを角周波数、f[Hz]を周波数と呼ぶ。), V0は尖頭電圧値[V]}

式(1)は、オイラーの公式により、次の式(2)と同値になる。

v(t) = V0*{cos(2*π*f*t) + j*sin(2*π*f*t)} ・・・式(2)

ここでは、複素ベクトル表現による電圧の電位点が、時間の関数として、複素数形式座標上でどのような動きをするかを、尖頭電圧 V0 = 1[V] で特殊化して考える。

1. 周波数 f ≧0 [Hz]の場合

式(1),式(2)より、

v(t) = exp(j*ω*t)
   = cos(2*π*f*t) + j*sin(2*π*f*t) ・・・式(3)

式(3)は、複素数平面上の単位円、円周上を角速度 ω=2*π*f[rad]で、回転する(尖頭電圧を1[V]とする)複素ベクトル電圧である。

この回転の開始点(初期条件)は複素数座標(1,0)とする。
交流電圧 v(t)の回転方向は、周波数 f ≧0 [Hz]の条件から、反時計方向になる。
この 複素ベクトル電圧v(t) が時間的にどのような動きをとるかを、図1.により見える化(可視化)した。


図1 可視化した複素ベクトル電圧1Vの姿(周波数が正(プラス)の場合


図1(a) 図1による複素ベクトル電圧1Vの実数軸成分電圧値の時間関数


図1(b) 図1による複素ベクトル電圧1Vの虚数軸成分電圧値の時間関数


2. 周波数 f ≦ 0[Hz]の場合

通常、交流や電波の周波数は正(プラス)の実数の[Hz]単位で表現されているため、複素ベクトル電圧の周波数f[Hz]がマイナス(負)になる数学の概念やその物理現象は、一般には必ずしも良く知られていない
複素ベクトル電圧 v(t) の式は、前項1.と同一式である式(3)がそのまま適用できる。


複素ベクトル電圧 v(t)は、前項1.と同様に複素数平面上の単位円の円周上を角速度 ω=2*π*f[rad]で、回転する。
この回転の開始点(初期条件)は複素数座標(1,0)とする。
一方、複素ベクトル電圧 v(t)の回転方向は、周波数 f ≦ 0 [Hz]の条件から、前項1.と逆回転方法で、時計方向になる。
この 複素ベクトル電圧v(t) が時間的にどのような動きをとるかを図2.により見える化(可視化)できる。


図2 可視化した複素ベクトル電圧1Vの姿(周波数が負(マイナス)の場合)



図2(a) 図2による複素ベクトル電圧1Vの実数軸成分電圧値の時間関数


図2(a) 図2による複素ベクトル電圧1Vの虚数軸成分電圧値の時間関数


3. 補足説明

3.1 交流モータによる交流発電と、(発電された)交流周波数の正負を判別する方法

下記の検討内容は、その後の検討結果、商用交流電圧は、三角関数として、実数定義域に存在し、実数軸上を単振動する性質があることがわかってきました。
これは、単極の周波数のみで、複素ベクトル電圧が果たして自然界に存在できるのか?という疑問が生じました。単極の周波数の複素ベクトル電圧は、単振動の電圧の微分方程式の特殊解ですが、現在のところ、実際の電子回路で生成できていません。

現時点でわかっていること。
一般商用交流電圧を三角関数で表現すると、それはオイラーの公式に従い、プラスの周波数の複素ベクトル電圧と、マイナスの周波数の複素ベクトル電圧の加算または減算のベクトル合成式で表現できる。


一般商用交流電圧 V(t) の計算式
V(t) = E0*sin(ω*t) ...(式4) {ここでE0は、E0≧0 の実数値のサイン電圧波の尖頭電圧値[V] }

= E0*((exp(j*ω*t)-exp(-j*ω*t))/2)*(-j) ... (式5)
= E0*((exp(j*ω*t)-exp(-j*ω*t))/2)*(exp(-π/2))
= E0*(exp(j*ω*t-π/2)-exp(-j*ω*t-π/2))/2 ...(式5')

ここで、オイラーの公式から、exp(j*π)=-1 なので (式5')は、次式でも書ける。
V(t)= E0*(exp(j*ω*t-π/2)+exp(j*π)*exp(-j*ω*t-π/2))/2
=(E0/2)*(exp(j*ω*t-π/2)+exp(-j*ω*t+π/2))...(式5'')

式(5'')は、複素数座標にある半径=E0/2 [V]の円周上を、起点(0,j*π/2)から時計方向に回転する周波数 -ω[rad・Hz/s]の複素電圧ベクトルと、起点(0,-j*π/2)から反時計方向に回転する周波数 +ω[rad・Hz/s]の複素電圧ベクトルが、それぞれ複素共役の関係となり同時に回転しながら存在し、虚数軸成分が打ち消し合うために、実数軸方向に -E0[V] から+E0[V]に単振動していると物理的意味に解釈できると考えます。(図3.1参照:E0=1[V]に特殊化して図解)

図3.1 サイン関数の単振動と2個の複素共役電圧ベクトルの関係
(※注 2017/3/15 点 P, P'のベクトル式修正済)

V(t)=sin(ωt)=(1/2)*( exp( j(-π/2+ωt ) + exp( j(π/2-ωt) )) …(6)


実数軸Re上を単振動する式(6)を、複素単位円上でθ[rad]傾けるためには、式(6)にexp(jθ)=cosθ+j*sin(θ)を乗算すれば良い。

V(t)=sin(ωt)*exp(jθ)=(1/2)*( exp( j(-π/2+ωt+θ) + exp( j(π/2-ωt+θ) )) …(7)

すなわち、複素電位は、複素数電圧平面を任意に移動できるので、「この世に存在する電気信号は全て実信号だけある。」とするネット上の学説[*]を根本から否定する根拠を示す理論式を得ました。

さらに、位相づれ関数θ(t)だけで無く,角周波数関数ω(t),振幅関数A(t)を仮定しても、時間的にこれらの値(角周波数関数ω(t),振幅関数A(t))が独立に変化しても、2つの複素ベクトルの位相差は、式(7)に従い、常に180度になるので、複素電圧平面で傾いた単振動をします。

交流電圧 V(t)= E0*sin(ω*t) は、実数軸方向に-E0≦ E0*sin(ω*t)≦+E0 に横に振動しています。

単一複素周波数 j*ω[rad*Hz]を考えた場合は、その交流 複素電圧ベクトルexp(j*ω*t)[V]の虚数軸成分は、
-j 〜 Im part (exp(j*ω*t)) 〜+j
で、縦方向(虚数軸方向)に振動しています。

参考サイト一例:トンペイさんのサイト


ここで、それぞれの正、負の複素電圧ベクトルが自然界で単独で存在できるか否かは、実験による観測により立証が必要。
その立証法を、交流モータの時計周り、反時計周りで再現できるのではないか?と考えたものの、その推測は以下の訂正線を入れたように、外してしまったようです。

交流モータは、AC電圧を加えると、フレミングの”左手”の法則に従って、コイルに発生する磁界から力を受けて磁石ローターが回転する。
その回転方向は、磁石が発生させている磁場の方向と、コイルの電線の巻き方向により定まる。

逆に交流モータは、その回転ロータに回転力を与え続けることで、交流発電機として動作する。
交流モータは、その回転軸に力を与えて回転させると、フレミングの”右手”の法則に従って、起電力、すなわち交流電圧を発生させる。

例えば、発電所で発電される交流は、交流モータ(交流発電機)を蒸気の力でタービーンと呼ばれる回転羽を回すことで、交流の電気を発生させている。

こうした交流モータを外力で回転させると、一秒間に50回転では、+50[Hz]または (マイナス)ー50[Hz]の交流電気を発電する。

こうした交流モータを外力で回転させると、一秒間に50回転では、+50[Hz]の式(4)で表現できるサイン平面波による交流電気を発電する。

この発電された交流電気の電圧値を複素数表現すると、オイラーの公式から、式(5)による表現となり、複素ベクトル電圧平面にて、時計方向に回転するプラスの周波数電圧成分と、反時計方向に回転するマイナスの周波数成分が減算により合成され、実数軸上を単振動するサイン電圧平面波と解釈できる。

(虚数成分は、複素数電圧が「複素共役」(ふくそきょうやく))の関係になり、虚数軸電圧成分=0[V]になる。これは、実数軸で考えると、交流電圧は実数軸のみに存在しているが、複素数平面で考えると、交流電圧は、プラスとマイナスの周波数成分が同時にペアで存在していることに書ける。)

発電された交流の周波数の正負は、その時間的な電圧変化を測定することで判別できる。
V(t) = sin(2*π*f*t) の(虚数軸)電圧値が、初期条件:時刻t=0, 原点(0,0) からプラス方向へ増加するサイン波電圧になった場合は、周波数 + f[Hz]と判別できる。

逆に、
V(t) = sin(2*π*f*t) の(虚数軸)電圧値が、初期条件:時刻t=0, 原点(0,0) からマイナス方向へ減少するサイン波電圧になった場合は、周波数 (マイナス)ー f[Hz]と判別できる。

 ∵ sin(2*π*(-f)*t) = ーsin(2*π*(+f)*t)

このように、交流モータが発生する交流電圧の周波数の正負は、そのモータの回転方向で定まり、回転方向を逆転すると、発生する交流電圧の周波数の正負が反転する

上記の斜線で書いた一般の交流電圧が、マイナスかプラスの周波数成分のどちらかと考えたのは誤りであることが分かりました。

一般の交流電圧は、虚数電圧成分=0(複素共役)の関係が成り立つため、同じ大きさの周波数で、正負の反転した複素電位が同時に共存していると考えられます。

なお、上記の斜線で書いたマイナスかプラスの単極の周波数成分による交流は、現在のところ、生成不可能のようです。

前述の式(2)では、

v(t) = V0*{cos(2*π*f*t) + j*sin(2*π*f*t)} ・・・式(2)

それぞれ90度位相のずれた電圧源 cos(2*π*f*t) 、 sin(2*π*f*t) を用意し、後者のsin(2*π*f*t)を、+90度移相器(High Pass Filterの利得減衰領域で位相差が+90度になる特性)を通過させて、j*sin(2*π*f*t)を得て、cos(2*π*f*t) を加算回路で加えれば、式(2)の示す単極の周波数成分の交流が数学的には得られると考えられます。


3.2 交流を低周波領域から高周波(電波)領域へ拡張する

日本で使われている交流発電機は、関東圏やその周辺地域では50[Hz]が使用され、関西圏やその周辺地域では60[Hz]が使用されている。

こうした50[Hz],60[Hz]の交流は、交流でも低周波と呼ばれる周波数領域にあり、その電気信号をアンプで音に変換すると、”ブーン”というように聞こえ、”ハム音”とも呼ばれている。

交流発電機の回転速度を上げると、回転速度に比例して周波数が上がり、ついには高周波領域すなわち電波領域の交流を発生することができる。

実際に、交流 高周波発電機は欧米で発明され、その機械式高周波発電機により発生させた電波での通信が行われていた時代があった。

その後、高周波発電機は、真空管やトランジスタによる高周波発振器が発明され、小型の電子回路に置き換わった。


3.3 マイナスの周波数の交流や電波の概念

現在では、高周波(電波)の発生は、小型の電子回路で実現されているため、周波数は正(プラス)のみという考え方で理解されている。
こうした交流を、複素数平面で捉えると、式(5)により、交流電圧はプラスの複素周波数ベクトル電圧と、マイナスの複素周波数ベクトル電圧の加算または減算による、複素共役の関係にある合成ベクトル電圧と考えることができる。

この負の周波数を持つ複素ベクトル電圧の存在は、ラジオやテレビ、携帯電話の周波数変換回路で、交流電圧の乗算演算が行われており、その計算式を三角関数で計算するときに、計算過程でその存在を数学的に推定できる。

交流の周波数は正(プラス)であるという先入観にとらわれると、複素数平面で交流を捉えるときに、負(マイナス)の周波数を持つ複素ベクトル電圧の存在に気がつかない理解状態に陥るかもしれない。
しかし、このことは、あまり一般には知られていないかもしれない。
(電子機器業界では良く知られた公知の理論として、デジタル変調の送受信機器では、複素数ベクトルの演算が既にごく当たり前のように行われているのが分かりました。)

複素ベクトル電圧による電圧の表現方法を知らなくても携帯電話は使え、テレビもラジオも視聴できるものの、自ら設計して作ろうとすると、日本国内の教育・文化水準に依存して、複素信号処理の理解に関して、おそらく大変に困った事態に陥ると推定されます。

3.4 応用例 放送局電波の送信と受信

放送局の送信機の出力する電波の電圧も、式(4),または式(5)で表現できる。
同様に、その放送局電波をアンテナで受信した時に、アンテナに発生する電圧を表現できる。

例えば、TBS(東京放送)ラジオ 954K[Hz]のAM変調の電波の搬送波(キャリア)成分が、ラジオ受信機のアンテナで、尖頭電圧 V0=10m[V] で受信されたとすると、アンテナ端子に現れる交流電圧は、E0=10m[V], f=954x10^3[Hz] として、式(4)または式(5)により、その受信電波の電圧式(搬送波成分)が得られる。
(ただし、AM変調放送波は、上記の搬送波電圧成分とともに、音声周波数の変調波電圧成分で構成されている。
(別記事:SDRのAM変調関連記事のAM変調電圧式に記述; Vam(t)={Vdc+x(t)}*Vc*sin(ωc*t))

地上デジタルテレビ、携帯電話の電波も、送信時、受信時ともに、ラジオ電波と同様に周波数の非常に高い交流電圧として、その電気的ふるまいを、複素数ベクトル電圧平面上で計算し、式(5)による時間関数式で表現できる。

4. 四元数の導入

複素数により数の概念は、実数の数直線から複素数平面へ広がった。
1997年のNokia社の複素数信号処理による変復調方式の発明で、現在、電気信号の処理は、複素数による数値計算が盛んに使われるようになった。

複素数の概念を平面からさらに空間へ拡張する「四元数」が発見されている。[1]
電気信号の処理は、次の段階として「四元数」の応用が可能かもしれない。

ニュートンさんが活躍した時代、オイラーさんはまだいなかったので、(古典)物理学の力学は複素数の導入が(現在でも)うまくできていない感じがする。

関連記事,情報

[1] 動画: ハミルトンとベクトルの誕生 四元数の発見
(Copyright by the author and Mr.Youtube )

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2016/6/24, 2016/9/13 [重要連絡]
上記の「交流電圧1Vの記事」説明にある電位は、位相が等角速度で回転する性質があり、一般用語で言われている「交流」とは異なっていたのが判明し、説明文を修正しました。
一般用語での「交流」は、位相回転の概念は無く、かつ、マイナス周波数成分とプラス周波数成分がキャンセルされて、単振動による実数軸上の横方向の電圧振動が起こっているのが判明しました。

2016/7/6
一般の交流信号は、オイラーの公式を用いると、マイナスの周波数成分と、プラスの周波数成分がそれぞれ打ち消しあって、実数軸上の単振動電圧となることが判明しました。
周波数変換を行う乗算器で、2つの和、差の周波数成分である2種類の周波数電圧が出てくることは良く知られた現象で、ここには隠れたマイナスとプラスの周波数成分が隠れていると物理的意味があると、解釈しました。
すなわち、もともと2種類の異なる交流周波数電圧には、それぞれが±の周波数成分が潜んでおり、それらを掛け合わせると、プラスとマイナスの周波数成分を考慮すると、2x2=4種類の周波数成分が出力されてくるが、プラスとマイナスの周波数の絶対値は同じで正負が異なるため、単振動の2種類の周波数成分が出ているように観測される物理的現象と解釈しています。

サイン関数とコサイン関数は、数学的には直交関係があると言われていますが、ここでは、両者の関数は、全ての時刻 t で、それらの位相差が常に90度 = 一定 を維持したままの状態を、電気信号の物理的意味で「直交」と考えて良いようです。ここでの「直交」の意味は、単に幾何学的関係が90度にあるという静的なものではなく、時刻 t に対して動的に動くサイン波電圧とコサイン波電圧は、全ての時刻で位相差が90度とその奇数倍の一定になることを「直交」する関係にあると考えました。

2016/9/12-13上記の文章を現在改訂中ですが、おそらくサーバのバックアップと回復処理で、改訂の編集内容が元に戻ってしまう現象(修正部分の横線罫線が消える現象が見られます。)が出ているようです。(現在、この原因は、私側では特定できない状態です。

2016/10/8
式(5)のサイン波電圧式を、-90度位相をシフトした(5)'に表現を追記しました。この表現式のほうが、電気信号として、複素数平面上の電圧の位相関係が、はっきりわかります。

2017/1/21
複素共役の概念の記述追加。
図1,図2を文章説明に論理を整合させて改訂。

2017/2/12
文章推敲、内容変更無し

2017/2/19
ハミルトンの「四元数」の発見について参考情報を追記

2017/3/1
式(5'')追記説明。
V(t) = E0*sin(ω*t)が、複素共役の関係にある2つの複素電位ベクトルで表現できることを追記説明。

2017/3/2
図3.1と説明文を追記。
2017/3/8
図3.1の乗数1/2 画像編集漏れありを説明追加。

2017/3/15
点 P, P'のベクトル式 半径(1/2)の入力漏れを修正

2017/9/3
式(6)のπ/2の+、マイナス符号のタイプミス修正。
式(6)の複素平面で傾いた交流電圧式の計算ミス修正。exp(jθ)を乗算することで、位相θ[rad] 回転させる式に修正。 だいぶ、説明がごちゃごちゃしてきたので、別途整理し、書き直し予定です。ここでは理論修正過程の記録をあえて残します。

2020/10/25
文章推敲。複素共役の関係について説明文を見直しと修正しました。
現在のところ、単極の周波数の交流は、実回路では実現できそうにありません。


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