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2017年11月11日土曜日

従来式AM終段コレクタ変調方式送信機のマイナス変調の計算再現とその原因

随分以前(おそらく1970年頃?)から現在(2017年12月)でも、日本国内では「AM終段コレクタ変調方式」によるAM送信機は大変有名な方式で、現在でも無線技術専門書籍やインターネット上の記事に、その応用回路例が多数見られます。

この方式は「マイナス変調」と呼ばれる現象が発生しやすいことが、実験的も、経験的にも広く知られています。僕も、この「マイナス変調」の現象を、高校時代の最初の本格的無線機(設計目標仕様AM出力5W)製作・実験の過程で経験しましたが、当時は、ついにこの現象を解決できませんでした。

「マイナス変調」とは、AM送信機にベースベンド変調信号である音声を入力すると、送信キャリア電圧が下がり、変調を深くするほど、そのキャリア電圧の下がり具合が大きくなります。同時に、送信電力も減少します。(音声をマイクへ向けてしゃべると、RFパワー計の針が下がりました。)

この現象は、トランジスタアンプの動作をA級またはAB級にして、かつトランジスタ負荷インピーダンスの高い小電力回路にして出力を下げると、例えば0.1W〜0.2W程度までは、なんとかプラス変調で動作します。しかし、それ以上の負荷インピーダンスが低い大電力に上げてゆくと、この「マイナス変調」の発生を避けることは不可能になりました。
(これは、実製作と実験で確認しました。)

図1. マイナス変調を起こしているAM送信機の例(BJT TR終段コレクタ変調方式)

図1.に、あえて国内では実用になると言われているC級アンプを構成し、1MH zキャリアを入力し、変調トランスを介して低周波アンプ信号で、「終段コレクタ変調」をかけてる様子をLTspiceで計算しました。
このように「マイナス変調」現象は、実際の実験と同様に、spice計算でも再現しています。

図1.では、低周波変調を深くかけるほど、無変調時のキャリア電圧よりも変調時の電圧が低くなる現象と、変調された送信電力が下がる現象が見られます。

図2. Cクラストランジスタアンプの高周波アンプの歪み発生の過渡解析とFFTスプリアス解析

図2.には、あえて、CクラスRFアンプを2N2222で構成し、その電気的動作の過渡解析および、スプリアスのFFT解析で、結果を示しました。

Cクラスアンプでは大きな歪みが発生することが電子工学でも基礎知識として良く知られています
図2でもコレクタ電圧は、ほぼ矩形波のような形状にまで歪み、奇数次のスプリアスが強力に出ていることがわかります。

この過渡解析では、高周波(1MHz)での過渡時間解析にて、トランジスタのhFE(=Ic/Ib)が、極めて短周期で動的に大きく変化する様子や、コレクタ電圧Vce がベース電圧Vbe より低くなる様子(コレクタ電流の飽和現象)が起こっておりマイナス変調を引き起こす原因(コレクタ電流飽和の動作点近辺でhFEが下がる)となる現象が見られます。

図3.1    2N2222 のhFE(電流増幅率特性 Vbe = 0.35[V]〜1.19[V] )

図3.1のように、BJT TR 2N2222 の電流増幅率(hFE=Ic/Ib)は、電源電圧Vcc=12V 固定、負荷抵抗=100[Ω]固定の条件では、Vbe(ベース・エミッタ間電圧)をDCスキャンすると、コレクタ電流Ic(Q1)が上昇して飽和状態に近づく動作点近辺で、急激に下降する特性が見られます。

すなわち、ベース電圧Vbeに高周波電圧が加わり、その電圧が上がってくると、hFEがほぼ一定で調子良く増幅できていたのに、Icが飽和してくるとhFE値が低下するために、コレクタ端子の出力電圧Vceは低下することになります。
このコレクタ電流が飽和状態に近づく動作点近辺で、電流/電圧増幅度が、一定から下降へ転ずる特性のために、マイナス変調が発生すると考えることができます。

図3.2   2N2222 のhFE(電流増幅率特性 Vbe = 0.00[V]〜1.50[V] )

BJT TRには、Vbe=0.3[V]近辺で、hFEが非常に高くなる良く知られていない謎の特性領域がありそうです。


この従来式AM終段コレクタ変調方式は1970年代に考案されたと思われ、国内の一部の通信機製品に一時期だけ採用されました。この方式はメーカでは短期間で不採用になっていますが、一方、専門技術書籍や実験機作成事例では、現在でも同方式の採用と不具合発生が大変多く続いており、方式課題の存在と解決方法の理解がほとんど進んでいない足踏み状態であることがわかってきました。
今後の設計文化の改善課題の一部と考えます。

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Rev.0.1 : トランジスタ 2N2222のVbe:電流増幅率hFEの静的特性のグラフ図3.1, 3.2とその説明文を追記。(2020/11/17)


2017年4月6日木曜日

従来式2段コレクタ変調によるAM変調信号の歪み現象を数式で表現する

従来式2段コレクタ変調によるAM変調信号の歪み現象を数式で表現する

ドライバ段TRの出力電圧式:V1(t)[V]
V1(t)=Vc*sin(ωc*t)*{Vdc+A*x(t)} …(1)


Vdc=12[V]
A=ドライバ段TRアンプの利得[倍]
ωc=2*π*fc ; 搬送波(キャリア)の角周波数[rad・Hz]
fc=50x10^6[Hz]
x(t)=Σ bi*cos(ωi*t) , here { i=1,2,3,・・・N; N≧1} ベースバンド信号


図1.  2段式コレクタ変調によるAM変調回路のブロックダイアグラム
(2段目の乗算器で歪みが発生する。)


ファイナル段TRの出力電圧式:V2(t)[V]
V2(t)= V1(t)*{Vdc+B*x(t)}
       = Vc*sin(ωc*t)*{Vdc+A*x(t)}*{Vdc+B*x(t)}
       = Vc*sin(ωc*t)*{Vdc^2+Vdc*B*x(t) +Vdc*A*x(t)+A*B*x(t)^2}
       = Vc*sin(ωc*t)*{Vdc^2+Vdc*(A+B)*x(t)+A*B*x(t)^2} …(2)

変調トランスの中間タップと終端タップで、
AF信号電圧は、トランスのコイル巻数に比例すると仮定すると、
B=2*A …(3)
x(t)を特殊化し、単一サイン波と仮定する。
x(t)=Vs*cos(ωs*t) …(4)


式(3),式(4)を、式(2)に代入すると、
V2(t)=Vc*sin(ωc*t)*{Vdc^2+Vdc*(A+2*A)*Vs*cos(ωs*t)+2A^2*Vs*cos(ωs*t)^2}
       =Vc*sin(ωc*t)*{Vdc^2+Vdc*3A*Vs*cos(ωs*t)+2A^2*Vs^2*cos(ωs*t)^2}    
=Vdc^2*Vc*sin(ωc*t)
+Vdc*3A*Vc*Vs*sin(ωc*t)cos(ωs*t)
+2A^2*Vc*Vs^2*sin(ωc*t)cos(ωs*t)^2


ここで、
Vdc^2*Vc*sin(ωc*t) は一定振幅のキャリア波,
Vdc*3A*Vc*Vs*sin(ωc*t)cos(ωs*t) = Vdc*3A*Vc*Vs*(1/2)*{sin((ωc+ωs)*t)+sin((ωc-ωs)*t)
これらは、それぞれ AF信号 ωsのUSB波電圧とLSB電圧


2A^2*Vc*Vs^2*sin(ωc*t)cos(ωs*t)^2 は歪み変調波で、
=2A^2*Vc*Vs^2*sin(ωc*t){ 1-sin(ωs*t)^2}
=2A^2*Vc*Vs^2*sin(ωc*t){ 1-(-1/2)*{cos(2ωs*t)-cos(0)} }
=2A^2*Vc*Vs^2*sin(ωc*t){ 1+(1/2)*{cos(2ωs*t)-1}}
=2A^2*Vc*Vs^2*sin(ωc*t){1+(1/2)*cos(2ωs*t) -1/2 }
=2A^2*Vc*Vs^2*sin(ωc*t){1/2+(1/2)*cos(2ωs*t)}
=A^2*Vc*Vs^2*sin(ωc*t){1+cos(2ωs*t)}
=A^2*Vc*Vs^2*{sin(ωc*t)+sin(ωc*t)*cos(2ωs*t)}
=A^2*Vc*Vs^2*{sin(ωc*t)+(1/2)*sin((ωc+2ωs)*t)+sin(ωc-2ωs)*t)} ....(5)


式(5)は、AF信号の2倍高調波歪みであるところの、
A^2*Vc*Vs^2*(1/2)*{sin((ωc+2ωs)*t)+sin(ωc-2ωs)*t)}  ...(6)
式(6)の電圧歪みが発生したことを意味する。


式(6)は、理想乗算器が2段接続された場合なので、
C級アンプでは、式(6)は、さらに大きく歪む。


おおまかには、AFの2倍高調波歪み波と、
振幅電圧が変化するキャリア変化成分
A^2*Vc*Vs^2*sin(ωc*t)
が加算されて現れる。

すなわち、(困ったことに)キャリア周波数の振幅もベースバンド信号電圧の2乗に比例した電圧成分で揺れる。


しかし、実際のファイナル段で、コレクタ電流 Icが飽和してしまうと、その揺れが見えなくなり、変調が浅い現象が出るかもしれない。


ここでの計算は、電圧式のみを計算しており、コレクタのRFC負荷=不明値の抵抗成分で3W出力を仮定した電圧降下を計算する必要がある。


設計の基本思想として、アナログ乗算器を2段にするという発想は、本来は、あってはならない設計ミスである。
ベースバンド信号の2倍高調波成分が、変調帯域内に現れることになり、音質は劣化してしまう結果を招く。


改善策として、ドライバ段TRにだけにコレクタ変調をかけ、ファイナル段は、リニアアンプ動作させるのなら、問題は少なくなる。
しかしそれでも、コレクタ変調方式自体が、アナログ乗算動作特性品質が良くないので、製品レベル品質として、いかがなものか、十分納得のいく不具合となる。

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Rev 0.1: Apr.10, 2017 図1. 従来式2段コレクタ変調方式のブロックダイアグラム追加

2017年3月31日金曜日

ダイオード4本のリングモジュレータを使った低電力式AM変調器の設計

ダイオード4本のリングモジュレータを使った低電力式AM変調器の設計

[概要]
リングモジュレータによる低電力式AM変調回路の性能をLTspiceで再現し、動作と性能検証した。
リングモジュレータは長年・長期に製品に採用された実績もあり、音質が良いとの評価があった。

その性能の高さは、LTspiceの計算でも再現し、DSB/AM変調に好適で、美しい変調波が得られ、スプリアス成分も十分除去できる回路構成がとれることが確認できた。

計算でも、製品実績の示すと同様に、スプリアス抑制には、BPFが必要なこともわかった。

さらなる性能向上には、ギルバートセル乗算器によるDBM回路、またはDBM ICを使うことで、より品質の高い変調波の発生/復調と、スプリアス低減が可能である。

LTspiceによるシミュレーション計算で、リング変調回路も、回路試作前にその電気的特性を事前に精度良く知り、回路方式の事前改良、最適化が可能、開発時間とコスト削減も可能となる。


1. LTspiceによるリング変調回路の過渡解析とFFT解析

図1.リングモジュレータ低電力式AM変調器と過渡解析,FFT解析結果(0~10mS)

図1.に、リングモジュレータを使用した低電力式AM変調器を、中心キャリア周波数5MHzに設計した回路と、その時刻 0~10mS 間の過渡解析結果を示した。

V(DSB-OUT) 緑色波形には、変調率 100%の綺麗なAM変調波電圧が得られている。


2. 回路動作

図1.のリングモジュレータ低電力式AM変調器の回路がどのように動くかを、以下に説明する。

2.1 リング変調器

アナログ乗算器としてその近似的乗算動作ができるショットキー・ダイオードBAT54を4本でリング変調器を構成する。
(ダイオードは、1N60、ショットキーダイオード,BAT54,1S106等、特定のものが利用できる。)

2.2 リング変調器は、次の入力ポートと出力ポートを持つ。

    入力ポート:

 (1) キャリア信号(サイン波/正弦波): Vosc
         周波数5MHz, ピーク最大/最小電圧±1[V]のサイン波/正弦波電圧

   (2) 音声信号+直流電圧信号: VAF
   ここでは、
   音声周波数 1KHz, ピーク最大/最小電圧±100[mV]のサイン波/正弦波電圧
        に、直流電圧 100[mV]を加算した信号を仮定した。
   コンデンサ C5=1uF は、DSB変調動作時に、DC電圧をカットするためのもので、C5 をショートすることで、音声のAC信号にDC電圧を加算した信号を入力できるようになる
  (C5に並列にスイッチを入れると、AM変調/DSB変調の切り替えができるようになる。
   スイッチオン:AM変調動作、スイッチオフ:DSB変調動作)

 出力ポート:

  (3) AM変調信号:DSB-OUT
        リングモジュレータで近似的アナログ乗算を行った信号を、LC共振回路(5MHzに同調)
   の2次コイル側から取り出す。出力信号として、AM変調波電圧が得られる。

2.3 ダイオードDBMのバランスの取り方

  (1) R3=50Ω, R4=50Ωのどちらかを100Ω程度の半固定抵抗とする。
  (2) C1=22pF, C2=22pFのどちらかを40pF程度の半固定コンデンサとする。
  (3)音声信号端子の入力信号をオープン状態(VAF端子を解放状態)にする。
  (4)5MHz 発振器の信号を注入する。
  (5)これらの半固定抵抗と半固定コンデンサの値を調整し、DSB-OUT端子の端子電圧が最小、0Vに近くなるようにする。
  (6)音声信号端子 VAFに、DC電圧100m[V]を底上げ(加算)した信号を入力する。
  (7)DSB-OUT端子の電圧をオシロスコープまたは、AM受信機(キャリア周波数に同調)でモニターし、変調の具合を見て、VAFの音声信号レベルと、DC電圧値を適切な変調状態になるように調整する。


3. 変調の品質と、スプリアスの計算評価

図3.1 リングモジュレータ低電力式AM変調器と過渡解析,FFT解析結果(0~4.4mS)

図3.2 リングモジュレータ低電力式AM変調器と過渡解析,FFT解析結果(0~4.4mS)

図3.1, 図3.2 に、リングモジュレータを使用した低電力式AM変調器を、
中心キャリア周波数5MHzに設計した回路、その時刻 0~4.4mS 間の過渡解析結果、FFT解析結果を示した。

ここのFFT解析結果は、リングモジュレータの広帯域周波数のスプリアス発生状態と、目的信号となる5MHz AM変調信号の電圧レベルを見るためのものである。

5MHz AM変調波は、周波数5MHzのピークにその存在が見える。

リングモジュレータは、回路上では、入力される電圧が完全に平衡しているような印象を受けるが、バランスの崩れは存在し、このように広帯域のスプリアス信号が発生する。

大部分のスプリアスは基本波に対し-40dBの基準を性能よくクリアしているが、いくつかの周波数スポットで、基準をオーバするスプリアスの存在が見える。

特に問題となるのが、このケースでは100KHzのスプリアスとなっているが、5MHzより大きく離れた周波数なので、BFP(Band Pass Filter)で容易に除去できる。

過去の製品回路実績、自作品実績でも、クリスタルフィルタならば、変調周波数帯域外は、-60dBは楽にクリアできている。

図3.3 リングモジュレータ低電力式AM変調器の近傍周波数FFT解析結

図3.3は、
リングモジュレータを使用した低電力式AM変調器を、中心キャリア周波数5MHzに設計した回路と、その時刻 0~4.4mS 間の過渡解析結果と、中心キャリア周波数5MH近傍のFFT解析結果を示した。

周波数近傍のスプリアスは少なく、リング変調器特性の良さがわかる。

しかし、ところどころ、-40dB基準をクリアできない周波数スポットが見られる。
既に述べたように、これらのスプリアスは水晶フィルタで、容易に-60dBの減衰が可能である。

図3.4 リングモジュレータ低電力式AM変調器のキャリア周波数近傍のFFT解析結果

図3.4 は、リングモジュレータを使用した低電力式AM変調器を、
中心キャリア周波数5MHzに設計した回路と、その時刻 0~4.4mS 間の過渡解析結果と、中心キャリア周波数5MH近傍のFFT解析結果を、図3.3よりさらに周波数幅を狭くして示した。

キャリア周波数5MHzのピーク電圧の右側に、5.001MHzのUSB電圧波成分、左側に4.999MHzのLSB成分が綺麗に見られ近傍にスプリアスは見られない。


4. リングモジュレータの動作条件等について

4.1 リングモジュレータに使用するダイオード特性の条件

リングモジュレータに使用するダイオードは、音声周波数~キャリア周波数近傍まで、高周波領域での利得が十分にあることが必要となる。
この目的にあったものとして、1N60が広く採用された実績がある。

現在は、ショットキーダイオードの中から1N60に代替できるものがある。(BAT54, 1SS-106 等)

シリコンダイオードは低周波領域での利得が下がるため、この応用には向いていないが、1N4148,1S-1588, 1S-1555などのスイッチング用ダイオードでも、小さな直流バイアス電流を流すことで、低周波領域の利得が改善する特性が知られている。


4.2 リングモジュレータとでモジュレータの関係

図1~図3.4に示したリングモジュレータは、DSB-OUT端子にAM変調/DSB変調/SSB変調信号を入力し、低周波発生器 V1のかわりに低周波アンプを接続すれば、プロダクト検波が可能で、実際に製品、自作品にも利用されてきている。


5. まとめ

(1)ダイオード4本を使用したリングモジュレータは、高品位の音質の良いAM変調、DSB変調波の電圧発生が可能でる。

(2)そのスプリアスは多くないが、スプリアス基準を満たすには、通信機製品がとってきたと同様にBPF実装によりクリーンな電波が生成できる。

(3)こうしたリング変調器による綺麗なAM変調波の発生方式の電気的特性は、トランジスタのコレクタ変調よりも、はるかに優れている。

(4)ダイオード4本を使用したリングモジュレータは、高品位の音質の良いAM変調、DSB変調波の電圧発生が可能であるが、ギルバートセル乗算器またはそのDBM ICを使うと、さらなる高性能化が可能で、スプリアス低減も可能である。

(5)リングモジュレータは、DSB-OUT端子にAM変調/DSB変調/SSB変調信号を入力し、低周波発生器 V1のかわりに低周波アンプを接続すれば、プロダクト検波によるAM変調/DSB変調/SSB変調信号の復調が可能である。


付録:

A.製品実績
リングモジュレータは、世界中のヒット商品となった通信機 TS-520, TS-820, TS-830 (TRIO/Kenwood社)等で採用された。
これらの通信機ではSSB変調回路が実装されたが、AM変調機能は省略された。

これらの通信機では、リングモジュレータでDSB変調後、約3KHz帯域幅の水晶フィルタ(通過周波数帯は約4MHz)を通過させ、LSB側波帯、またはUSB側波帯をカットする方式がとられた。
これらの製品の回路構成は、水晶フィルタを交換すれば、AM変調も可能になっている。

日本国内では、AM変調送信機の自作品は、終段コレクタ変調方式が多いが、終段コレクタ変調ではマイナス変調等不具合がおこる回路設計事例が今でも多く見られ、問題発生が継続しているように見られる.
この記事のリング変調器を使うだけで問題の解決が可能となる。

※※特記すべき注意情報※※

日本国内に拡散され、定着した常識
「リング変調器に直流を流すとバランスが崩れ、キャリア信号が出力される。」
・・・これは誤った理解による情報です。

正しくは、AM変調の電圧式 Vam(t)

Vam(t)={Vdc+x(t)}*sin(ωc(t)) ...式(1)

式(1)中の直流電圧 Vdc[V] をリング変調器へ与えることで、Vdc*sin(ωc(t))[V]のキャリア電圧信号が発生する・・・これが正確な理解です
(大変困ったことに、思い込みにより広く広がった誤った常識が、無駄な時間とコストを発生させている例と思われます。)



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2017年2月4日土曜日

シンプルなリング変調回路によるAM変調/DSB(SSB)変調回路と奇妙な回路特性

リング変調回路を、LC共振回路無しで構成すると、電圧のプラスの象限と、マイナスの象限領域が半分になったような、見たことのない奇妙なAM変調波またはDSB変調波を生成することがわかった。(図1.1, 図1.2)


図1.1 ダイオードのみによるリング変調回路の奇妙な動作 FFT周波数広帯域

FFT解析で、キャリア中心周波数近傍のスペクトルを見ると、このような半月上の波形形状でもAM波、またはDSB波を形成していることが分かった。(図1.2)


図1.2 ダイオードのみによるリング変調回路の奇妙な動作+FFT周波数狭帯域


図1.3 ダイオードのみによるリング変調回路の奇妙なAM変調波形+FFT周波数狭帯域

この奇妙なAM変調波は、下側のマイナスの象限が無いが、周波数スペクトルを見ると、キャリア信号とUSB、LSBの側波帯が見られる。(図1.3)


図2.1  既存の通信機用リング変調回路とDSB変調波形 過渡解析

従来より通信機に使用されているDSB変調器の過渡解析結果を図2.1に示す。
綺麗なDSB変調波(緑色)が見える。
この回路の後に水晶フィルタを使いLSB側またはUSB側の帯域を取り出すSSB通信機の送信回路がかつて多用されていた。


図2.2  既存の通信機用リング変調回路とDSB変調波形 AC解析

従来式リング変調式DSB変調器のAC特性は、キャリア抑圧特性が同周波数上で極大になり、キャリアがキャンセルされるため、利得はこのように大変小さくなる。(図2.2)


図2.2  既存の通信機用リング変調回路とDSB変調波のFFT広帯域特性

このようにリング変調回路によるDSB変調または、AM変調波には、大変広帯域のスプリアス信号が発生する。(図2.2)
このため、変調器の直後の電波の質は大変悪く、特性の良い水晶フィルタ等の狭帯域バンドパスフィルタを使ってはじめて実用になる


図2.3  既存の通信機用リング変調回路とDSB変調波のFFT狭帯域特性

このように周波数軸を狭帯域で見ると、LSB信号、USB信号が見え、キャリア信号はキャンセルされ見えない。
キャリア信号を出すには、AF信号源にDC電圧を与える。するとAM変調波が発生する。

ここでDC電圧をAF信号源に与えてもリング変調器の平衡は崩れていない

国内では、「DC電圧をAF信号源に与えると、リング変調器の平衡が崩れて、キャリア信号が漏れる」という「言い伝え」があるが、それは何かの勘違いが伝わっているもので、リング変調器の平衡は何も崩れてはいない。

リング変調器による周波数変換器は、1997年ノキア社の数値演算式変復調器の特許にも使用され、また現在の携帯電話用ミキサーにはそうした高い周波数用のダイオードDBMが並列に構成し利得減衰を少なくした部品が現役である。必ずしもclassicなものではない。

このリング変調回路は、周囲の回路との電気的結合が小さくなるので、回路全体の異常発振がおこりにくくなる優れた特性がある。

例えば、現在も使用されている従来式スーパーヘテロダイン・ラジオは回路間の結合が強く、異常発振を起こしやすい技術的課題をもった状態で製造が続いているが、ミキサー回路にこのリング変調器を使うことで、異常発振はいとも簡単に止まる。(実験で検証済)




2015年7月11日土曜日

AM変調の原理実験


このAM変調送信機は、LTspiceに用意されたAM/FM送信器定義部品を使って、1MHz キャリアに、1KHzの変調波(最大振幅40[mV])を与えて過渡解析結果と、FFTによる周波数成分を見たものです。変調度は100%です。このAM送信機は、DC電圧 40[mV]をオフセットとして、変調サイン電圧波を底上げした電圧と、キャリアのサイン波1MHzを乗算器で乗算する、いわゆるAM低電力変調と呼ばれる方式であることがわかります。

出力されたAM変調波の周波数成分は、中央が1MHzのキャリア、左側が1KHz下の変調波、右に同様に、1KHz上の変調波が見えています。変調度100%でも殆ど理想的な歪の少ないAM変調波が出力されています。

いにしえからの言い伝えによると、AM変調は簡単にその送信機を製作できるとあります。
その言い伝えがいつ始まったのかはわかりませんが、実際にラジオ専門誌、雑誌の回路設計を使うと、変調がうまくかからないことが殆どです。おそらくこの迷信化した言い伝えは今でも信じられています。

書籍として記事にいったん書かれ、それが繰り返されると、私達は知らない間に騙されていても、それに気づかないものなのです。結論から言うと、それらの製作記事は設計ミスのために、変調がうまくかかりません。プロのラジオAM局が綺麗に変調がかかっていますが、市販の通信機では、有名なナショナル社RJX-601すらも1W出力ではプラス変調がかかっていましたが、3W出力に切り替えると、通称 ”マイナス変調”と呼ばれる現象が発生していました。

これも設計ミスによるものであることは、未だに殆ど知られていないと思われます。
マイナス変調とは、AM送信機のマイクから音声を入力し変調をかけると、送信出力が現象方向に送信電圧が下がる現象です。他、製作すると期待しない異常動作を経験しました。



この回路は比較的近年にインターネットに公開された、終段コレクタ変調方式の一つです。これはうまく動作していることがわかります。オーディオアンプとして多用されているLM386の出力電圧を、終段トランジスタのコレクタへ接続し、直線増幅動作するようにバイアス動作点を設定し、変調用トランスを用いていない新規性が特徴で、優れた設計です。



この回路は、トランジスタによる1MHzのサイン波発振回路に、抵抗1本だけの自己バイアス方式で、トランジスタ高周波増幅器を接続し、同増幅器に変調トランスを介して、終段コレクタ変調方式で、AM変調をかけています。
結果は、図の通り、変調信号を十畳された変化する電源電圧が加わった終段トランジスタは、出力される高周波電圧にAM変調の振幅とは異なる位相の変調振幅波形が出力されています。



このケースは、終段トランジスタの出力する変調波が、上下で90度位相がずれて、上下対称にならない変調の位相ずれの問題が起きています。


この例では、バイアス無しの2段の高周波アンプを構成し、それぞれに、変調トランスを介して振幅する電源電圧を与えています。出力された変調波は、非常に変調度の低い信号電圧が現れています。バイアス無しなので上記の高周波アンプはC級アンプです。
この回路構成は、日本で数多く出版されたラジオ専門誌に掲載されてきたものです。

この回路方式を実験すると、実際に非常に変調の浅い音が、AMラジオから聞こえます。
この回路構成は、現在でもインターネットに多く掲載されています。


この回路は、2段の高周波アンプに抵抗二本で電源電圧を分圧したバイアス電圧を与え、トランジスタの直線増幅動作特性を改善させたものです。
上のバイアス無しの高周波アンプと異なり、かなり深いAM変調がかかるように特性が改善されています。


この回路は、変調をより深くかけて見た例です。


非常に長い間、現在でも、C級増幅アンプによるAM変調回路が発表されてきていますが、その従来方式では浅いAM変調またはマイナス変調という現象が発生します。

私の検証作業においては、簡単にAM変調ができるという従来の書籍説明は、シミュレーションでも、実機実験でも再現したことは一度もありません。

付録:
BJT TR 2N2222 を使った「終段コレクター変調式AM送信機」のシミュレーション計算実験例

AMコレクタ変調 例1

・・・コレクタに加える低周波電圧が低いレベルでは、電波の変調歪みは小さい。


                                                                      AMコレクタ変調 例2

・・・コレクタに加える低周波電圧が高いレベルになると、電波の変調歪みは大きくなる。


                                                                 AMコレクタ変調 例3

・・・コレクタに加える低周波電圧が低いレベルでは、電波の変調歪みは小さいが、
コレクタに加える低周波電圧が高いレベルになると、電波の変調歪みは大きくなる。

以上のように、LTspiceによるシミュレーション計算では、実回路と同様に、AMコレクタ変調方式は、歪変調みが発生し、良い音質のAM変調がかけにくい現象が再現する。

この特性・現象の原因は、BJTトランジスタのアナログ乗算器としての電気的特性が、真空管の プレート変調方式やハイジング変調方式より、大きく劣るためと考えます。