2017年3月31日金曜日

ダイオード4本のリングモジュレータを使った低電力式AM変調器の設計

ダイオード4本のリングモジュレータを使った低電力式AM変調器の設計

[概要]
リングモジュレータによる低電力式AM変調回路の性能をLTspiceで再現し、動作と性能検証した。
リングモジュレータは長年・長期に製品に採用された実績もあり、音質が良いとの評価があった。

その性能の高さは、LTspiceの計算でも再現し、DSB/AM変調に好適で、美しい変調波が得られ、スプリアス成分も十分除去できる回路構成がとれることが確認できた。

計算でも、製品実績の示すと同様に、スプリアス抑制には、BPFが必要なこともわかった。

さらなる性能向上には、ギルバートセル乗算器によるDBM回路、またはDBM ICを使うことで、より品質の高い変調波の発生/復調と、スプリアス低減が可能である。

LTspiceによるシミュレーション計算で、リング変調回路も、回路試作前にその電気的特性を事前に精度良く知り、回路方式の事前改良、最適化が可能、開発時間とコスト削減も可能となる。


1. LTspiceによるリング変調回路の過渡解析とFFT解析

図1.リングモジュレータ低電力式AM変調器と過渡解析,FFT解析結果(0~10mS)

図1.に、リングモジュレータを使用した低電力式AM変調器を、中心キャリア周波数5MHzに設計した回路と、その時刻 0~10mS 間の過渡解析結果を示した。

V(DSB-OUT) 緑色波形には、変調率 100%の綺麗なAM変調波電圧が得られている。


2. 回路動作

図1.のリングモジュレータ低電力式AM変調器の回路がどのように動くかを、以下に説明する。

2.1 リング変調器

アナログ乗算器としてその近似的乗算動作ができるショットキー・ダイオードBAT54を4本でリング変調器を構成する。
(ダイオードは、1N60、ショットキーダイオード,BAT54,1S106等、特定のものが利用できる。)

2.2 リング変調器は、次の入力ポートと出力ポートを持つ。

    入力ポート:

 (1) キャリア信号(サイン波/正弦波): Vosc
         周波数5MHz, ピーク最大/最小電圧±1[V]のサイン波/正弦波電圧

   (2) 音声信号+直流電圧信号: VAF
   ここでは、
   音声周波数 1KHz, ピーク最大/最小電圧±100[mV]のサイン波/正弦波電圧
        に、直流電圧 100[mV]を加算した信号を仮定した。
   コンデンサ C5=1uF は、DSB変調動作時に、DC電圧をカットするためのもので、C5 をショートすることで、音声のAC信号にDC電圧を加算した信号を入力できるようになる
  (C5に並列にスイッチを入れると、AM変調/DSB変調の切り替えができるようになる。
   スイッチオン:AM変調動作、スイッチオフ:DSB変調動作)

 出力ポート:

  (3) AM変調信号:DSB-OUT
        リングモジュレータで近似的アナログ乗算を行った信号を、LC共振回路(5MHzに同調)
   の2次コイル側から取り出す。出力信号として、AM変調波電圧が得られる。

2.3 ダイオードDBMのバランスの取り方

  (1) R3=50Ω, R4=50Ωのどちらかを100Ω程度の半固定抵抗とする。
  (2) C1=22pF, C2=22pFのどちらかを40pF程度の半固定コンデンサとする。
  (3)音声信号端子の入力信号をオープン状態(VAF端子を解放状態)にする。
  (4)5MHz 発振器の信号を注入する。
  (5)これらの半固定抵抗と半固定コンデンサの値を調整し、DSB-OUT端子の端子電圧が最小、0Vに近くなるようにする。
  (6)音声信号端子 VAFに、DC電圧100m[V]を底上げ(加算)した信号を入力する。
  (7)DSB-OUT端子の電圧をオシロスコープまたは、AM受信機(キャリア周波数に同調)でモニターし、変調の具合を見て、VAFの音声信号レベルと、DC電圧値を適切な変調状態になるように調整する。


3. 変調の品質と、スプリアスの計算評価

図3.1 リングモジュレータ低電力式AM変調器と過渡解析,FFT解析結果(0~4.4mS)

図3.2 リングモジュレータ低電力式AM変調器と過渡解析,FFT解析結果(0~4.4mS)

図3.1, 図3.2 に、リングモジュレータを使用した低電力式AM変調器を、
中心キャリア周波数5MHzに設計した回路、その時刻 0~4.4mS 間の過渡解析結果、FFT解析結果を示した。

ここのFFT解析結果は、リングモジュレータの広帯域周波数のスプリアス発生状態と、目的信号となる5MHz AM変調信号の電圧レベルを見るためのものである。

5MHz AM変調波は、周波数5MHzのピークにその存在が見える。

リングモジュレータは、回路上では、入力される電圧が完全に平衡しているような印象を受けるが、バランスの崩れは存在し、このように広帯域のスプリアス信号が発生する。

大部分のスプリアスは基本波に対し-40dBの基準を性能よくクリアしているが、いくつかの周波数スポットで、基準をオーバするスプリアスの存在が見える。

特に問題となるのが、このケースでは100KHzのスプリアスとなっているが、5MHzより大きく離れた周波数なので、BFP(Band Pass Filter)で容易に除去できる。

過去の製品回路実績、自作品実績でも、クリスタルフィルタならば、変調周波数帯域外は、-60dBは楽にクリアできている。

図3.3 リングモジュレータ低電力式AM変調器の近傍周波数FFT解析結

図3.3は、
リングモジュレータを使用した低電力式AM変調器を、中心キャリア周波数5MHzに設計した回路と、その時刻 0~4.4mS 間の過渡解析結果と、中心キャリア周波数5MH近傍のFFT解析結果を示した。

周波数近傍のスプリアスは少なく、リング変調器特性の良さがわかる。

しかし、ところどころ、-40dB基準をクリアできない周波数スポットが見られる。
既に述べたように、これらのスプリアスは水晶フィルタで、容易に-60dBの減衰が可能である。

図3.4 リングモジュレータ低電力式AM変調器のキャリア周波数近傍のFFT解析結果

図3.4 は、リングモジュレータを使用した低電力式AM変調器を、
中心キャリア周波数5MHzに設計した回路と、その時刻 0~4.4mS 間の過渡解析結果と、中心キャリア周波数5MH近傍のFFT解析結果を、図3.3よりさらに周波数幅を狭くして示した。

キャリア周波数5MHzのピーク電圧の右側に、5.001MHzのUSB電圧波成分、左側に4.999MHzのLSB成分が綺麗に見られ近傍にスプリアスは見られない。


4. リングモジュレータの動作条件等について

4.1 リングモジュレータに使用するダイオード特性の条件

リングモジュレータに使用するダイオードは、音声周波数~キャリア周波数近傍まで、高周波領域での利得が十分にあることが必要となる。
この目的にあったものとして、1N60が広く採用された実績がある。

現在は、ショットキーダイオードの中から1N60に代替できるものがある。(BAT54, 1SS-106 等)

シリコンダイオードは低周波領域での利得が下がるため、この応用には向いていないが、1N4148,1S-1588, 1S-1555などのスイッチング用ダイオードでも、小さな直流バイアス電流を流すことで、低周波領域の利得が改善する特性が知られている。


4.2 リングモジュレータとでモジュレータの関係

図1~図3.4に示したリングモジュレータは、DSB-OUT端子にAM変調/DSB変調/SSB変調信号を入力し、低周波発生器 V1のかわりに低周波アンプを接続すれば、プロダクト検波が可能で、実際に製品、自作品にも利用されてきている。


5. まとめ

(1)ダイオード4本を使用したリングモジュレータは、高品位の音質の良いAM変調、DSB変調波の電圧発生が可能でる。

(2)そのスプリアスは多くないが、スプリアス基準を満たすには、通信機製品がとってきたと同様にBPF実装によりクリーンな電波が生成できる。

(3)こうしたリング変調器による綺麗なAM変調波の発生方式の電気的特性は、トランジスタのコレクタ変調よりも、はるかに優れている。

(4)ダイオード4本を使用したリングモジュレータは、高品位の音質の良いAM変調、DSB変調波の電圧発生が可能であるが、ギルバートセル乗算器またはそのDBM ICを使うと、さらなる高性能化が可能で、スプリアス低減も可能である。

(5)リングモジュレータは、DSB-OUT端子にAM変調/DSB変調/SSB変調信号を入力し、低周波発生器 V1のかわりに低周波アンプを接続すれば、プロダクト検波によるAM変調/DSB変調/SSB変調信号の復調が可能である。


付録:

A.製品実績
リングモジュレータは、世界中のヒット商品となった通信機 TS-520, TS-820, TS-830 (TRIO/Kenwood社)等で採用された。
これらの通信機ではSSB変調回路が実装されたが、AM変調機能は省略された。

これらの通信機では、リングモジュレータでDSB変調後、約3KHz帯域幅の水晶フィルタ(通過周波数帯は約4MHz)を通過させ、LSB側波帯、またはUSB側波帯をカットする方式がとられた。
これらの製品の回路構成は、水晶フィルタを交換すれば、AM変調も可能になっている。

日本国内では、AM変調送信機の自作品は、終段コレクタ変調方式が多いが、終段コレクタ変調ではマイナス変調等不具合がおこる回路設計事例が今でも多く見られ、問題発生が継続しているように見られる.
この記事のリング変調器を使うだけで問題の解決が可能となる。

※※特記すべき注意情報※※

日本国内に拡散され、定着した常識
「リング変調器に直流を流すとバランスが崩れ、キャリア信号が出力される。」
・・・これは誤った理解による情報です。

正しくは、AM変調の電圧式 Vam(t)

Vam(t)={Vdc+x(t)}*sin(ωc(t)) ...式(1)

式(1)中の直流電圧 Vdc[V] をリング変調器へ与えることで、Vdc*sin(ωc(t))[V]のキャリア電圧信号が発生する・・・これが正確な理解です
(大変困ったことに、思い込みにより広く広がった誤った常識が、無駄な時間とコストを発生させている例と思われます。)



ブログ記事目次へ戻る