2016年12月23日金曜日

どうしてラジオは聞こえるの?(ラジオが聞こえる仕組み)

スーパーヘテロダイン式ラジオが聞こえる仕組みを、小学生の加減乗除の計算と、高校一年生の三角関数の知識だけ[※1]を用いて、その電気的動作特性を、数式で優しくわかりやすく説明する。


1. スーパーヘテロダイン式ラジオの構成
図に、従来式スーパーヘテロダイン式ラジオの構成を示す。




2. スーパーヘテロダイン式ラジオの動作

AM変調のラジオ電波は、式(1)による電圧式で表現できる。[※2]

Vam(t)=A*{1+x(t)}*sin(2πfc*t) …(1)

Vam(t) : AM変調電波の電圧(時刻 tの関数)[V]
A : キャリア信号電圧の尖頭電圧[V], A≠0
fc :キャリア信号電圧の周波数[Hz]  fは実数, fc≠0  [※3]
t :時刻 t[s],  tは実数
x(t) : ベースバンド信号(変調信号)の時間関数[V]

ここで、目的のラジオ局のキャリア周波数を fc[Hz] とすると、図中のBPF(Band Pass Filter,バンドパス・フィルター)をLC並列共振回路で構成し、キャリア周波数 fc[Hz] に同調すると、BFPのフィルター特性により、fc[Hz]近傍の周波数成分だけの電波の高周波電圧を取り出せる。

図中のラジオ初段の同調回路のBPFでは、fc[Hz]近傍のBPF通過帯域内で、利得ロスが無く(0[dB])、位相の変化が一定、と近似できるので、
BPFを通過した電波の電圧V1は、

V1≒ Vam(t)
   = A*{1+x(t)}*sin(2πfc*t) …(2)

局部発振周波数 fosc[Hz] とすると、式(3)で局部発振器の出力電圧Vosc1が表現できる。

Vosc1 = Vo*sin(2πfosc*t) …(3)

Vosc1 : 局部発振器が出力する電圧の値 [V]
Vo : 局部発振器が出力する電圧の尖頭値 [V]  
fosc :キャリア信号電圧の周波数[Hz]   
t :時刻 t[s]  {t: tは実数}

図中の「乗算器」では、V1, Vosc1 を掛ければ、その出力電圧V2が求まるので、

V2 = V1*Vosc1
    = A*{1+x(t)}*sin(2πfc*t) * Vo*sin(2πfosc*t)
    = A*Vo*{1+x(t)} * {sin(2πfc*t) *sin(2πfosc*t)}
    = A*Vo*{1+x(t)} * (-1/2)*{cos(2πfc*t+2πfosc*t) - cos(2πfosc*t-2πfc*t)}
    = A*Vo*{1+x(t)} * (-1/2)*{cos(2π(fc+fosc)*t) - cos(2π(fosc-fc)*t)}
    = A*Vo*{1+x(t)} * (1/2)*{ -cos(2π(fc+fosc)*t) + cos(2π(fosc-fc)*t) } …(4)

式(4)の電気回路上の動作は、「乗算器」からの出力電圧V2には、二種類の周波数成分、fc+fosc[Hz] と、fosc-fc[Hz] の高周波電圧が現れ、それら2種類の周波数成分の電圧を加算して合成された電圧が出力されることを意味する。

図中のBPF(455KHz)は、fosc-fc[Hz]に同調しているので、この周波数455KHz近傍の周波数を通過させるが、周波数が離れた fc+fosc[Hz] 近傍の周波数成分は通過できない。

よって、信号電圧 V2が、図中のBPF(455KHz)を通過した電圧 V3は、次の式(5)となる。

V3=A*Vo*{1+x(t)} * (1/2)*{cos(2π(fosc-fc)*t)} …(5)

ここで スーパヘテロダイン式ラジオでは、
fosc-fc = fi = 455[KHz] = const. …(6)
が常に成り立つように、図中のバリコンVc1, Vc2による同調関係を維持するように設計されている。

IFアンプ1の利得を G1倍とすると、その出力電圧V4は、式(7)となる。

V4=G1*A*Vo*{1+x(t)} * (1/2)*{cos(2πfi*t)} …(7)

ここで、電圧V4は、BPF(455KHz)を無損失で通過すると、式(8)を得る。

V5=G1*A*Vo*{1+x(t)} * (1/2)*{cos(2πfi*t)} …(8)


IFアンプ2の利得を G2倍とすると、その出力電圧V6は、式(9)となる。

V6=V5*G2
  =G1*G2*A*Vo*{1+x(t)} * (1/2)*{cos(2πfi*t)} …(9)

電圧V6は、BPF(455KHz)を無損失で通過すると、式(10)を得る。

V7=V6
   = G1*G2*A*Vo*{1+x(t)} * (1/2)*{cos(2πfi*t)} …(10)

ここで局部発振器(BFO)の電圧式 Vosc2は、固定周波数fi=455[KHz]を発振するので、式(11)で表現できる。

Vosc2=Vo2*cos(2πfi*t) …(11)

Vosc2 : 局部発振器BFOが出力する電圧の値 [V]
Vo2 : 局部発振器BFOが出力する電圧の尖頭値 [V]
fosc2 :局部発振器BFOが出力する電圧の周波数[Hz],
t :時刻 t[s]  {t: tは実数}

(式(11)は、位相シフト=0 のcos波を仮定した。
ここでは、サイン波から位相が90度ずれたコサイン波にしていることに注意。)[※*]

図の「乗算器」は、電圧V7とVoscを入力して乗算し、V8を出力するので式(12)を得る。

V8=V7 * Vosc2
   = G1*G2*A*Vo*{1+x(t)} * (1/2)*{cos(2πfi*t)} * Vo2*cos(2πfi*t) …(12)
   = G1*G2*A*Vo*Vo2*{1+x(t)} * (1/2)*{cos(2πfi*t)} *cos(2πfi*t) }
   = G1*G2*A*Vo*Vo2*{1+x(t)} * (1/2)*{ (1/2){cos(4πfi*t)} + cos(0)} }
   = (1/4)*G1*G2*A*Vo*Vo2*{1+x(t)} * { cos(2π2fi*t) + 1 } …(12)’

式(12)’による電圧V8は、LPF/BPFが、低周波成分 20[Hz]~20[KHz] を通過させるが、2fi=455*2=910[KHz]近傍の周波数をほとんど通過させないので、V9は式(13)となる。

V9= (1/4)*G1*G2*A*Vo*Vo2*{1+x(t)}
   = (1/4)*G1*G2*A*Vo*Vo2+ (1/4)*G1*G2*A*Vo*Vo2*x(t) …(13)

式(13)で、 初項の (1/4)*G1*G2*A*Vo*Vo2は、直流電圧の一定値で、オーディオアンプの初段のコンデンサでカットできるので、式(14)がオーディオアンプの入力信号となる。

Vaf-in = (1/4)*G1*G2*Vo*Vo2*A*x(t) …(14)

式(14)では、G1,G2,Vo,Vo2は、このラジオ内の電気的定数で一定値で、Aは、受信するAMラジオ局信号のフェーディングがない場合は一定値となる。(フェーディングが発生した場合は、Aの値は時間的に変化する。)

よって、式(14)のプロダクト検波出力電圧は、通常、一定の定数倍した変調信号が復調されている。

V9の信号は、小電圧信号なので、スピーカの音を鳴らせるように、低周波電圧アンプ(利得G3)と、電力アンプ(電圧利得0dB=1倍)で増幅し、式(15)を得る。

V11=V10=G3*Vaf-in
             =(1/4)*G1*G2*G3*Vo*Vo2*A*x(t) …(15)

このようにして式(15)に従い、スーパーヘテロダイン式ラジオからは、放送局または送信局からの変調信号x(t)を定数倍した電圧でスピーカから音が出る。

式(15)は、IF増幅器の利得、G1,G2と低周波増幅器の利得G3、局部発振器の尖頭電圧Vo, 局部発振器2(BFO, 455KHz)の尖頭電圧Vo2、受信されたラジオ局のキャリア信号の尖頭電圧Aのすべての積に直線的に比例した電圧値が出力されていることを意味する。

ここで、定数 K=(1/4)*G1*G2*G3*Vo*Vo2 と置くと、式(15)はシンプルになり、式(15)’と書ける。

V11= K*A*x(t) …(15)’

式(15)’は、ラジオの音は、もともとの変調信号x(t)の音が、定数倍に増幅されて音として聞こえること意味する。
また、電波の電界強度はAを時間的に変化する関数 A(t) ととらえると、ラジオ音が時間経過とともに大きくなったり、小さくなったりするフェーディング現象を説明できる。

ラジオ回路では、このフェーディング現象を軽減するため、図中のAGCアンプでIFアンプにフィードバック制御を行い、ここでは、利得G1の値を自動的に変化させることで、ラジオ感度の自動利得制御を行う。



付録:
(補足説明)

※1:わかりやすい優しい数学の応用:これら高校初期までの数式知識を応用するだけで、ラジオ受信機の電気的動作を、たいへんやさしく、わかりやすく理解できるようになる。
また、求まった数式に数値を代入して数値計算を実行することで、理論計算結果を回路システム設計用に利用・予測計算できるようになる。
さらに、そうした計算値を、実験による測定値と比較することで、ラジオ動作の理論実証も可能になる。

※2: AM変調電圧波の一般式: Vam(t)={1+x(t)}*A*sin(2πfc*t) …(1)

式(1)に関して、
時刻 t=0 での位相ずれθ[rad]=const.
ベースバンド信号 x(t)に加算するDC電圧電圧をVdc[V]で表現すると、

Vam(t)={Vdc+x(t)}*A*sin(2πfc*t -θ) …(1)’  (ここで Vdc ≧ 0)

式(1)’ が、一般化したAM変調の電圧式となる。

式(1)’で、Vdc=0 の時は、キャリア信号が消失した、DSB変調波波となる。
Vdsb(t)=x(t)*A*sin(2πfc*t -θ) …(1)’’

式(1)’で、位相ずれ θ= +90度の時は、
Vam(t)={Vdc+x(t)}*A*cos(2πfc*t) …(1)’’’

式(1)’’’ のように、キャリア波電圧は、サイン関数でもコサイン関数でも、AM変調電圧式は表現できる。違いはキャリア波位相が -90度ずれているだけになる。

※3 : IF周波数帯に周波数変換されたAM変調のキャリア波電圧は、コサイン関数になっている。
このため、周波数変換部または、プロダクト検波部では、入力される信号に対し、位相が90度ずれているサイン波電圧を「乗算器」で掛け合わせると、その計算結果として、出力電圧は0[V]になり、出力電圧信号が無くなる。
このため、キャリア周波数に対して、局部発振器とBFOの発振器の位相ずれが、90度の整数N倍(N≠0)にならないように、回路設計には注意が必要となる。

※4 : 電波の定義:電波法では、法律の便宜上、300万[MHz]以下の電磁波を「電波」と規定しているが、近代の科学では、電波、赤外線、可視光、紫外線、x線、ガンマ線も電磁波と言われている。[**]

※5: 同調の意味:
電波は、0[Hz]より大きい周波数の電波から、無線Wifi電波 5[GHz]以上の電波が空中には共存して存在しており、空間を様々な周波数の電波が飛び交っている。
これら混在する電波の中から、受信したい目的のラジオ局だけに限定して、受信機を周波数に合わせる操作を「選局する」または「同調する」と言う。

※6 : IFアンプのAGC制御:
実際のラジオ回路では、IFアンプの利得が大きくなりすぎて出力電圧飽和しないように、図に示すようにAGCアンプの電圧を帰還して、IFアンプの利得をフィードバック制御し、利得が飽和しないようにしている。

※7: AM検波方式:
このラジオ構成では、数式での計算を簡単に説明できるように、理論的に高調波歪みの発生しないプロダクト検波方式[**]を、AM復調器に使用した。
従来式のダイオード検波回路[**]では、復調波に対して、第二、第三、第四・・・の高調波歪みが発生する。

[**] この高調波発生の原因は、おそらくは、ショックレーの理想ダイオードの電流式[**]により、電圧-電流特性がネピア数 e (e=2.71828…)の指数関数 i(t)=Is*{ exp(K*v(t)) -1 }に従った指数関数特性が、交流~高周波でもその特性を持っているためと考えられる。
この理想ダイオードの電流式は、全体キャリアの移動に関する偏微分方程式に基づき導かれた直流電流式であるため[**]、高周波電圧の交流電圧波または交流電流波に対しては、同式を直接には適用できない。
それは、少数キャリアとする電子や正孔(正の電荷を持つ電子と相対する仮想粒子)は、導体内または、半導体内を少数キャリアの大変低速で移動するのに対し、電圧の波、すなわち交流~電波は、電磁波の波の速度、おおまかには光に近い速度で伝わるため。

※8:周波数の値域: 周波数f[Hz]の値域は一般に f>0 正の実数だけが一般に仮定されてきているが、ここでは、次の理由から負の周波数の存在を否定しない考え方をとっている。

A*sin(2πft)= -A*sin(2π*(-f)*t)
 ∵ sin関数は奇関数なので、 sin(-x)=-sin(x) が成り立つ。

この式の意味するものは、負の周波数 -f[Hz]によるサイン波電圧は、電圧値の正負が反転した正の周波数+f[Hz]のサイン波電圧値として一致して観測され、単振動するサイン波の周波数の正負が測定では区別できないかもしれない、と予測される。

この現象は、インダクタンスが同じ値のコイル(ソレノイド、インダクタ)を、右ねじの方向に巻いたコイルと、その逆方向 左ネジの方向に巻いたコイルでは、発生する磁力線の方向が180度異なっているはずで、その交流や電波の周波数は同じ値に観測されても、電圧値は、正負が逆転して観測されると予想する。
また、発振器のLC共振コイルの角度を180度反転させることでも、FER FIELDで検出される平面波による電波を受信したアンテナには、正負の反転した電圧が観測されると予想する。

※9:2連バリコン、多連バリコンの課題:
従来式スーパーヘテロダイン式ラジオでは、2連式のポリバリコン、多連式エアバリコンが使用されている。RF初段のバーアンテナのインダクタンス値と、局部発振器の発振用コイルのインタクタンス値が異なっているために、バリコンを回転角度に対するコンデンサ容量が、回転角に対して直線的に変化すると、受信周波数と局部発振器周波数の周波数差分を中間周波数と一致させることができなくなる。

このため、これら多連バリコン回転角度に対する容量は、受信周波数と局部発振器周波数の周波数差分を中間周波数と一致するような容量変化特性に設計する必要がある。
従来式バリコンでは、トラッキング調整用とする小容量の半固定コンデンサを並列にバリコン内部に実装して、同調周波数ずれの補正を行っている。
中波ラジオでは、550[KHz]-1600[KHz]という1[MHz]以上もの広帯域周波数の受信同調を行うので、バリコンの機械的構造精度に製造上の困難さがあったものと推定される。


参考文献、参考資料:
[1] 数 I    高校教科書(文科省認定)
[2] 数 IIB 高校教科書(文科省認定)
[3] 数 III   高校教科書(文科省認定)
[4] 物理 I  高校教科書(文科省認定)
[5] 物理 II  高校教科書(文科省認定)
[6] 算数 教科書(小学1年生から小学6年生用,中学1年から3年生用,文科省認定)
[7] 理科 教科書(小学1年生から小学6年生用,中学1年から3年生用,文科省認定)
[8] 技術家庭科 教科書(中学生用,文科省認定)
[9] LTspice related documents, Linear Technology inc.
[10] Videos of Prof. Edwin H. Armstrong, Youtube/Google inc.
[11] MIT OCW 6.002, Prof. Anant Agarwall, iTunes/Apple inc., Youtube/Google inc.
[12] MIT OCW 6.003, Prof. Dennis Freeman, iTunes/Apple inc., Youtube/Google inc.
[13] MIT OCW 6.01, Prof. Walter Lewin, iTunes/Apple inc., Youtube/Google inc.
[14] MIT OCW 6.02 Prof. Walter Lewin, iTunes/Apple inc., Youtube/Google inc.
[15] MIT OCW 6.03, Prof. Walter Lewin, iTunes/Apple inc., Youtube/Google inc.
[16] USAF Educational videos, Youtube/Google inc.
[17] アナログ回路 新原盛太郎
[18] トランジスタ技術 CQ出版社
[19] 子供の科学 誠文堂新興社
[20] ラジオの製作 電波新聞社
[21] 初歩のラジオ 電波新聞社
[22] 電波法令集(総務省,CQ出版社)

(ポリバリコン式スーパーヘテロダイン・ラジオの製品例 Kenko社の製品(非売品、景品用))


(PLL同調式 スーパーヘテロダインラジオ製品例 (SONY社の製品 生産中止品))


※※ご注意※※
この記事は現在編集・推敲中で、誤入力等があり得ます。気づき次第、改訂の予定です。

暫定版: 12/11, 2016 Noboru Aoki, Ji1NZL
12/26:Rev.0.1 AM式(1)変数説明の入力脱字部分の追記。負の周波数電圧の観測方法追記(※8)。

0 件のコメント:

コメントを投稿

現在コメント機能に不具合が出ています。お手数ですみません。
メッセージは、メールでお送り願います。